夏場の脱水症に要注意!~意外と知らない脱水症の3タイプと症状、経口補水液の作り方と飲み方〜

薬剤科

脱水症とは? ~体液が減少し、水分と電解質が不足している状態~

私たちの身体の半分以上は水分でできています。この水分は体液と呼ばれ、体液は大きく細胞内液と細胞外液に分けられます。細胞内液は細胞内に含まれる液体で、細胞外液は細胞の外に存在する液体です。細胞は、細胞外液から栄養素や酸素を受け取り、老廃物を排出します。体液の量は乳幼児では体重の70~80%を占めますが、加齢とともに細胞内液量が低下し、成人では約60%、高齢者では約50%です。体液が失われ、水分と電解質が不足している状態を脱水症といいます。

脱水症の種類と特徴 ~3種類あり、原因や症状も異なります~

水分とナトリウムのどちらが多く失われたかによって、高張性脱水、等張性脱水、低張性脱水に大別されます。臨床では水分とナトリウムの両方が欠乏した混合性脱水がよくみられます。

●高張性脱水(水分欠乏型脱水)

高齢者に起こりやすく、食欲低下や病気療養などで水分が十分に摂取できず、徐々に体液が減少して起こります。また、尿崩症などによって過剰な水分排泄があった場合にも起こります。
水分欠乏型脱水では血漿浸透圧の上昇による喉の渇きや尿量の減少がみられます。高度の欠乏時には精神、意識の異常(興奮状態や昏睡)も伴います。

●等張性脱水

出血や下痢・嘔吐、熱傷などにより体液が失われることで起こります。

●低張性脱水(ナトリウム欠乏型脱水)

小児や成人に起こりやすく、発汗や嘔吐・下痢などによって通常以上に体液が失われたにもかかわらず、水だけを摂取した場合や、ナトリウムを含まない、あるいは含有量の少ない輸液製剤を投与した場合などに起こります。ナトリウム欠乏型脱水では、循環血液量の減少による血圧低下のため、頭痛やめまい、吐き気、立ちくらみなどの症状がみられます。

脱水症の予防 ~こまめな水分補給が大切です~

1日に必要な水分量は食事以外に約1.2Lとされています。汗や発熱で水分を失った場合はさらに多くの量を摂取する必要があります。無理なく、こまめに摂取することが望ましいです。飲料は、食事が摂取できていれば、アルコール以外であれば何でも水分補給になりますが、ジュースや炭酸飲料など糖分が多く含まれる飲料の摂り過ぎには注意しましょう。

脱水症の治療 ~治療の基本は経口補水療法 または 輸液療法~

脱水症の治療の基本は、不足した水分や電解質を補充することです。治療方針は重症度(表1)で決まります。軽症~中等症では経口補水療法で対処し、経口摂取できない場合や重症の場合は輸液療法が選択されます。

表1 脱水症の重症度

●経口補水療法

脱水症の治療に経口補水液を用いる方法のことを経口補水療法と言います。経口補水液は水と電解質の補給ができる飲料で、ドラッグストアなどで購入できます。主成分は水と電解質とブドウ糖です。ナトリウムイオン濃度が高く、浸透圧が人の身体に近いか、低い組成になっています。

また、小腸におけるナトリウム・ブドウ糖共輸送機構により、ナトリウムイオン単独より、ブドウ糖が共存した場合に水の吸収が促進されるため、素早く身体に吸収されます。このナトリウム・ブドウ糖共輸送機構は、下痢をしていても正常に機能するため、下痢の時にも経口補水液は効果があります。

<経口補水液の作り方>

経口補水液は自宅でも簡単に作ることができます。清潔な容器で作り、その日のうちに飲み切るようにしましょう。レモンやグレープフルーツの果汁を加えると飲みやすくなりますが、入れすぎると吸収が悪くなるので、入れるのであれば、水1Lに対し果物半分程度の量にして下さい。

<経口補水液の飲ませ方>

脱水症と診断されたら迅速に経口補水液の摂取を開始します。摂取量の目安は成人では1日あたり500~1000mLですが、急性期には1日あたりの推奨量にこだわらず、500~1000mLをできるだけ早く摂取させます。その後は、一気に摂取すると、せっかく摂った水分が尿として排出されやすくなってしまうため、少しずつ(500mLを30分ほどかけて)摂取するようにします。

●輸液療法

脱水の種類によって有効な輸液製剤が異なります。誤った選択は脱水を悪化させてしまうこともあるので注意が必要です。

<高張性脱水に対する輸液療法>

体液量が急激に減少したタイプでは、ショックがある場合は等張輸液(細胞外液補充液)を急速投与し、循環動態が安定したら低張輸液を使用します。ショックがない場合は高ナトリウム血症を避けるため低張輸液が第一選択です。体液量がそれほど減少していないタイプでは5%ブドウ糖液を使用します。どちらのタイプでも循環動態が落ち着いてきたら低張輸液で維持療法を行います。

<低張性脱水に対する輸液療法>

低張性脱水には等張輸液(細胞外液補充液)を使用しますが、脱水の原因によって喪失する電解質に違いがあるため、用いる輸液製剤も異なります。
例えば、嘔吐による脱水の場合は、大量の胃液を喪失し体液がアルカリ性に傾く(アルカローシス)ため、アルカリ成分を含まない生理食塩液が適しています。下痢による脱水の場合は、腸液などの消化液を大量に喪失し、体液が酸性に傾く(アシドーシス)ため、アルカリ成分を含む乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液を用いるとアシドーシスに対する効果も期待できます。

脱水に注意が必要な薬 ~尿量を増加させる薬、下痢を起こす薬に注意!~

脱水の原因となる代表的な薬剤として利尿剤がありますが、他にも注意が必要な薬剤があります。(表2)特に高齢者ではたくさん薬を服用されている方が多く、また喉の渇きや暑さを感じにくいため、夏場は脱水症のリスクが高まるので注意が必要です。

表2 脱水の原因となる薬剤の例

おわりに

入院患者さんの中にも脱水状態の方がよくいらっしゃいます。脱水状態で薬を服用すると、血中濃度が高くなり副作用が出やすくなったり、薬による腎障害のリスクも高まるなど、薬物治療にも影響が出てしまいます。そうならないためにも、脱水症対策の重要性を患者さんに伝えていきたいです。

参考文献
月刊薬局2021.7 月刊薬局2021.8
谷口英喜:「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本