■はじめに
当院でも今月(2024年1月)より院外処方箋に検査値が表示されるようになりました。今回、その導入の目的と経緯等について、主に薬剤師の方々に向けてお話したいと思います。
■保険薬局と病院との連携の必要性
外来においては、もともと医師と薬剤師が薬物療法で、それぞれの専門分野で業務を分担することによって、医療の質の向上を図ることを目的とし、医薬分業が推進されてきました。当院でも1993年10月から院外処方箋を発行するようになりました。
行政は「団塊の世代」が全て75歳以上となる2025年を目途に、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の導入を目指しています。そのキーワードの一つに「連携」があげられます。医療機関の連携、病院と保険薬局の連携、在宅医療、多職種の連携など、病院薬剤師も患者が退院後もシームレスに薬物療法が行えるように、地域の保険薬局薬剤師に薬剤処方や留意事項の情報提供をするとともに、双方向の情報共有が課題となっています。
■薬剤師による情報提供及び薬学的知見に基づく指導強化の課題
有効で安全な薬物療法の提供のためには、患者の服薬状況を継続的に把握し、その情報を処方医等に情報提供を行う事が必要ですが、保険薬局の薬剤師はこれを必ずしも十分実施できているとは言えない実態があります。
病院薬剤師は電子カルテに集約された臨床検査値(検査値)等を活用しながら処方監査や疑義照会などを行なっていますが、保険薬局薬剤師が入手できる情報は処方箋に記載されている情報及び患者からの聞き取りに限られており、薬学的知見に基づく指導を行うには限界があります。
その中で検査値は患者の病態を客観的に判断できる一指標になります。また、医薬品の中には、添付文書上、定期的に採血検査が義務付けされているものもあり、処方監査時における検査値活用の重要性が高まってきています。
■院外処方箋への検査値表示の取り組み
現在、院外処方箋の発行機関となる病院では、保険薬局との連携に向けて、院外処方箋に検査値を表示するなどの新たな体制の整備を進めています。これまでに、この取り組みに関しては医薬品の適正使用などの観点から、その有効性を示す報告があります。
では、具体的に表示する主な検査値について、Q&A方式で見ていきましょう。
■検査値の項目数及び検査結果が表示されていない場合はどういう時か?
現状、医療機関が処方箋に記載している検査値は、副作用の防止や早期発見につながる指標が中心となっています。当院では検査項目は、15項目に設定しています。
(WBC、好中球、Plt 、Hb、AST、ALT、T-Bil、BUN、Cre、eGFR、CK、Na、K、BNP、HbA1c)
検査値表示は、直近90日以内に採血された検査結果が表示されます。90日以上採血されていない場合は、検査値結果は表示されません。
■上記検査値に関連して、具体的にはどんな医薬品について注意したら良いのでしょうか?
当院採用薬で添付文書に「警告・禁忌」の記載がある医薬品の例を以下に示します。
■検査値について患者から質問があった場合は、どう回答したら良いでしょうか?
保険薬局薬剤師は説明せずに、主治医に確認するように伝えて下さい。
検査値は患者の病態のごく一面を表すにすぎず、処方の妥当性や副作用かどうかを判断するには、薬剤師と医師が協働する必要があります。
■検査値の基準値を知りたい場合は?
当院ホームページに掲載しています(みどり病院ホームページ内 「医療従事者の方々へ」タグに掲載)。
■患者が検査値の表示を拒否した場合の対応は?
次回の病院受診時に、医師にお伝え頂ければ電子カルテ上にて非表示にする事は可能です。
■保険薬局から検査値の問い合わせに対する当院での運用方法は?
1)トレーシングレポート(服薬情報提供書)を活用して当院薬剤科へFAXして頂く。
2)当院薬剤師は、カルテにて状態を確認した上で医師に報告する
※トレーシングレポートはホームページにPDFとして掲載
※処方箋記載内容についての即時性の高い疑義照会は、現行通り各診療科へお願い致します。
■終わりに
これから薬剤師は病院勤務、保険薬局勤務を問わず、検査値を活用した薬学的管理能力を身につけていかなければなりません。また、薬薬連携を地域で広げていき、多職種と連携し情報共有ができる薬剤師が必要とされてきます。
院外処方箋に検査値を表示する取り組みが、処方鑑査や疑義照会の質を向上させて、副作用の早期発見と有効な服薬指導に繋がり、患者にとって最良の薬物療法を医師とともに追究する足掛かりとして検査値を活用していきたいと思います。