糖尿病の治療目標は?〜キーワードは合併症予防〜
糖尿病は簡単に言うと、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高くなってしまう病気です。ですから血糖値を下げてあげれば健常人と変わらない生活ができるはずです。しかし、血糖値をただ単に下げてあげるだけで本当に良いのでしょうか?
科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインには、『糖尿病治療の目標は、糖尿病症状を除くことはもとより、糖尿病に特徴的な合併症、糖尿病に併発しやすい合併症の発症、増悪を防ぎ、健康人と同様な日常生活の質 (QOL)を保ち、健康人と変わらない寿命を全うすることにある。』と書かれています。つまり、血糖値を下げることが最終目標ではなく、血糖値を下げることで合併症を防ぐことが大切なのです。
糖尿病の合併症の覚え方〜“しめじ”と“えのき”両方ともキノコで覚えてね!〜
血糖値が高い状態が続くと、全身の血管と神経が障害され合併症を引き起こします。その合併症には、大きく分けると『細小血管障害』と『大血管障害』の2つに分ける事ができます。
細小血管障害とは、読んで字の如く、細い血管の障害です。糖尿病の3大合併症と言われているのがこれにあたり、神経障害、網膜症、腎障害の3つの事を指します。神経障害=し、網膜症(眼)=め、腎障害=じ で、キノコの『し・め・じ』と覚えて下さい。一方大血管障害とは、太い血管の障害の事を言います。これもキノコの種類で覚えて下さい。壊疽(足病変)=え、脳梗塞=の、虚血性疾患=き で『え・の・き』です。
これらの合併症のうち、今回は大血管障害、特に虚血性心疾患に注目したいと思います。
虚血性心疾患とは?〜糖尿病患者は特に注意が必要〜
虚血性心疾患は、冠動脈に動脈硬化などが原因で狭窄や閉塞が起こり、心筋に十分な酸素が供給できなくなること(心筋虚血)で起こる疾患で、何らかの原因で冠動脈がけいれん(れん縮)して狭窄する場合もあります。また動脈硬化は、『血管の老化による硬化』と『血管の内壁にコレステロールが蓄積するアテローム性粥状(じゅくじょう)動脈硬化』により起こると言われています。
心筋が虚血状態になると、狭心症や心筋梗塞を引き起こしやすくなります。さらに虚血の状態が長く続くと、心臓を収縮させる心筋の動きが悪くなります。そうなると、心臓のポンプ機能にも影響が出てきて心不全の症状が現れてきます。さらに重症化し、『心室細動』という命にかかわる不整脈を起こすこともあります。これだけでも怖い気がしますが、糖尿病患者の場合は、さらに注意が必要です。久山町研究では、糖尿病患者はそうでない方と比べると2〜3倍虚血性心疾患になりやすいとの報告がありました。また別の研究では、糖尿病患者に心筋梗塞が起こった場合、非糖尿病患者に比べると重症なことが多く、さらに死亡率も高い(糖尿病患者の死因の約15%)とも言われています。
糖尿病患者の虚血性心疾患を予防するには・・・〜ポイントは食後血糖値〜
舟形町研究では、空腹時血糖値が高いよりも食後血糖値が高い方が心血管イベントを起こしやすいとの報告がありました。また、VADTやACCORD研究の結果から『重症低血糖を起こすのがダメである』ことがわかってきました。これらの研究の結果から言えることは、心血管イベントを予防するには、『低血糖を起こさずに食後血糖値を下げてあげることが大切』ということではないでしょうか。
どんな薬を使用すれば良いのでしょうか?〜グリニド、αGI、SGLT–2阻害薬、GLP–1受容体作動薬が良い〜
ひと昔前までは血糖降下剤の種類も少なかったこともあり、スルホニルウレア剤(SU剤)に頼る治療が主流でしたが、最近は、様々な作用機序の薬が使用できるようになり、SU剤を使用する機会が減ってきました。SU剤は食前・食後共に血糖降下作用が強く又即効性もあるため使用しやすいのですが、腎機能が悪いと体内に蓄積し、遷延性の低血糖を起こす可能性があるため、特に高齢者に使用する場合には注意が必要です。そこで、最近SU剤に代わって注目されているのがグリニド系薬剤です。グリニド系薬剤の作用機序はSU剤と同じくインスリン分泌促進作用なのですが、作用時間が短いため食後血糖値のみを下げてくれます。その中でもレバグリニドは唯一の胆汁排泄型で、腎機能に影響を受けないため遷延性の低血糖の心配もありません。これだけ良いことだらけなのにグリニド系薬剤がそこまで使用されていない理由は、服用時間が食直前であることではないでしょうか。食直前服用は、食後服用と比べてアドヒアランスが悪くなってしまう可能性があります。その他に食後血糖値を下げてくれる薬剤にはαグルコシダーゼ阻害薬(αGI)があります。αGIは副作用が少なくて良いのですが、グリニド系薬剤と同じく食直前服用なので、アドヒアランスの悪い患者には使用しにくいことが問題です。なかなか完璧な薬はありませんね。
また最近の研究では、SGLT–2阻害薬やGLP–1受容体作動薬は血糖降下作用とは別の作用機序で心血管イベントを抑制することもわかってきました。ですから、これらの薬剤と従来の薬剤を上手に使いこなして糖尿病の治療を行うことが大切です。