”心不全パンデミック”ってなに?~広報誌「みどりの風」Vol.32~

”心不全パンデミック”ってなに? 循環器内科 室生 卓

みなさんは『心不全パンデミック』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?そもそも『パンデミック(pandemic)』とはインフルエンザやマラリア、チフスなど重症感染症の世界的な流行に対して使われる言葉です。心不全に対し『パンデミック』という言葉を用いるのは心不全が実は感染症だから、というわけではありません。心不全は多くの場合感染症とは因果関係はありません。ではなぜ、感染症でもない心不全に対して『パンデミック』という言葉を使うか?それは『これまでにない多くの人が心不全にかかる時代が来ている』からです。

心不全はすべての心疾患がその原因となります。心筋梗塞、心臓弁膜症、不整脈、心筋症、高血圧などなどです。これに高齢が加わることで心不全を発症します。そして多くの場合、一度心不全を発症するといったん症状がよくなっても再び悪くなり、最後は死に至ります。

ではこの『心不全パンデミック』に対して我々はどう立ち向かえばよいのでしょうか。まず、心不全の芽を早めに摘み取ることです。そのためには心臓病の早期発見早期治療が重要です。動悸や息切れ、痛みがある場合は早めに受診しましょう。第2には心不全の原因や病態を明らかにすることです。原因となっている病気を治すことができれば心不全を繰り返すことはありません。逆に原因を明らかにせず、対症療法に終始すれば心不全を繰り返すことになります。心臓弁膜症が原因で心不全になっているのであれば外科的治療を含め弁の機能を正常化させることが、冠動脈疾患が原因であれば障害された冠動脈の血流を改善する必要があります。当院では高齢であっても手術やカテーテル治療をすることがあります。なぜならばこれらの根本的な治療によって心不全の再発を防ぐのみならず、自覚症状の明らかな改善が得られ、内服薬も減らせることがしばしばあるからです。
3番目に根治療法ができない場合にはお薬の調整やリハビリテーション、食餌指導などを行います。最近では心不全に対し効果的な薬剤が開発され良好な成績を収めています。また、全身の筋肉が心臓を守る役割を果たしていることなどが分かってきておりリハビリテーションの方法も変わってきています。当院ではこれら最新の知見を日常の治療に活かすことも重要と考えております。