指が消えたり頭の一部が消えてしまう・・・まるで心霊写真みたい!!身近な金属や意外なものがMRIの画像に影響します~

MRIの検査を受けられたことがある方、付き添い等でお部屋に入ったことがある方へ!
(ない方もぜひご覧ください)

当院のMRI検査室入口の扉です。扉にはこのような張り紙を貼っています。当院に受診されたことのある方には見覚えがあるかもしれません。

MRI検査では、入室前には念入りに持ち物検査をされるかと思います。上の写真で青の点線で囲ってあるところに「磁場発生中」と書いてあり、検査中でなくてもMRIの機械は常に強力な磁石の影響があり、電子機器やカードなど小さなものでもMRI装置の故障の原因になったり、画像に影響を及ぼしたり、ご自身の携帯電話やクレジットカードが壊れたりする可能性があります。

特に今の時期はカイロを服の中に忍ばせてそのまま忘れて検査室に入ってしまったり・・・・・と私たち放射線技師にとってはヒヤヒヤさせられる危険要素が多々存在します。上の写真(MRI検査室入り口)で黄色の点線の部分に持ち込み出来ないものが書いてありますので、入室前にもう一度ご確認をよろしくお願いします。

一般的には金属がダメ!と言われていますが、これらは磁力を帯びる「磁性体」のことで、いわゆる金属であっても物質によっては検査可能なものもあります。

今回は、これら磁性体が検査の画像にどのように影響するのかお話したいと思います。

○磁性体とは?〜どんな金属が該当するの?〜

磁性体とは、外部から磁界をかけたとき磁性を帯びる物質であり、世の中のすべての物質が磁性体といいます。そして、磁力の性質の違いから反磁性体、常磁性体、強磁性体の3つに分けられます(下表)。一般的には鉄など強磁性体の物質が磁性体と呼ぶことが多いです。

上の表から、1番上の強磁性体物質は大きいもの(ステンレス製品)であればMRIの機械に飛んでいって引っ付いて取れなくなってしまったり、小さいものでも撮像画像が金属の周辺ですべて消えてしまったりと影響が大きいです。画像に関してこの後お話します。

以前の整形外科手術においては人工関節や髄内釘などの金属はステンレスが多く、MRI検査をしても画像が消えてよく見えませんでした。MRIが世の中に普及し、おおよそ平成以降くらいからはチタンが多くなり、金属部分の場所は画像で描出できませんが、周囲はみえるようになりました。

○実際の検査画像〜磁性体の影響で見えるはずの部分が消える?〜

では実際に検査に影響が出ている画像と、検査にほぼ影響がない画像をいくつかご紹介します。

①右手MRI

外観からは何もなく、患者さんも体内に金属はないと言われ撮ったら、このような画像が撮れました。

【右手MRI画像】

指が3本しか写っておらず、親指(拇指)と人差し指(示指)が完全に無くなっています。また、指のところも白く線が入っています。この患者さんの指は普通にあります。
この後検査を中止し、レントゲンを撮りました。

【右手レントゲン画像】

人差し指(示指)の所に小さく白い点が見えます。患者さんも分からなかったので詳細は不明でしたが、工場勤務で以前ケガをした際に金属が入り、そのまま残ったものだと思われます。
この小さな金属でも画像を消してしまうほどの影響があります。今回は体への影響はありませんでしたが、不明な金属はやけどの恐れもあるので、検査中に違和感を感じられましたら、すぐにお知らせください。

②頭部MRI

次も小さな金属が入り込んだ患者さんです。

【頭部MRI画像 左:T2強調画像、右:FLAIR画像】

右前頭部(画像では左上)の一部が凹んで消えています。この患者さんもこの後CTの検査を行って小さな金属があることを確認しました。この患者さんも検査中に違和感等はありませんでした。

【頭部CT画像:骨条件】

体内に入り込んだ金属片などは取り除くことができませんが、次にご紹介する画像は検査前の事前準備で防ぐことができます。

【頭部MRI画像 左:T1強調画像、右:拡散強調画像】

こちらは別の患者さんの頭部MRIの画像ですが、青矢印(→)部分が上の左の画像ではトゲトゲに欠けていたり、右の画像では変に白くなっていますね。こちらは患者さんが当日付けていた整髪料(ワックスや白髪染め等)に含まれる金属成分が原因で画像に影響が出てしまいました。

頭部の検査では、脳梗塞やその他脳の病気と間違える場合もあるため検査当日はワックスや白髪染め、化粧品(ファンデーションやマスカラ、アイライナーなど)、制汗スプレー(金属イオン含有)は付けないようにしてください。

③人工股関節(検査可能)

最後に人工の股関節のMRIについてご紹介します。股関節の人工関節は様々な形のものがありますが、基本的にはMRI対応のものとなっています。手術時期もおおよそ平成になって以降であればMRI対応のものです。時期があいまいの場合や、検査対応かどうか不安がある方は一度手術をされた病院に確認すると確実です。

材質はチタンやコバルトクロム合金が多く、これらは常磁性体のため、先ほどの手のMRIや頭部MRIの金属みたいな広範囲の画像の乱れ(アーチファクト)は現れません。
まずは患者さんのレントゲン写真を見て金属の部分をみてください。

【股関節レントゲン画像】

上の画像で左の股関節(画像では右側)の白く映っている部分に人工骨頭が入っています。では次に手術後のCT画像をご紹介します。

【股関節CT画像】

CTの画像では骨の条件にすると、骨や人工股関節部分は見やすくなりますが、お腹や骨盤内の臓器を見る条件では周辺が黒くなり見えなくなってしまいます。

【股関節MRI画像】

MRIの画像では人工骨頭の金属の部分は黒く消えていますが、周囲はそれほど消えていません。もし人工骨頭の金属が強磁性体であれば、画像の半分以上が黒く消えて見えなくなると思いますが、常磁性体の金属のため影響は少ないです。骨盤内の臓器などはCTの検査をするよりMRIのほうが見やすくなる場合もあります。

○さいごに

いかがでしたか。MRIの検査では金属の磁性体の種類によって可能なもの、不可能なものがあります。検査前に下の画像のような問診票やチェックリストで確認をしています。これ以外にも、もし検査室内への持ち込み品や検査自体について何かご不明な点や、ご不安なことがあれば医師、看護師や放射線技師などの病院スタッフにご相談ください。

体内金属がある方は実際に手術を受けられた病院に検査が可能かどうか確認されるのが確実です。その他にも閉所恐怖症などMRIについて疑問・不安がある方はお気軽にご相談ください。

【左:MRI検査問診表、右:チェックリスト】