病院で社会福祉士として仕事をしていると時々質問を受けることがあります。
『うちの母親が2週間前に脳梗塞になってリハビリ入院をしているんです。介護保険を申請したんですが、身体障害者手帳の申請も考えているんです。』
確かに脳梗塞という病気を患い後遺症が残ると介護保険も障害者手帳も両方申請しておいた方が良いような気がしますよね。制度上の問題ですが、少しわかりにくいと思うのでわかりやすくお話しをしたいと思います。
介護保険制度について
『介護保険法』に基づき要介護者に介護サービスを提供し自立した生活を送るための支援を受けることのできる制度です。『国民皆保険』なので、40歳を過ぎると国民全員が保険料を納める必要があります。原則65歳以上の方は介護保険が対象になります。
障害者福祉制度について
『障害者自立支援法』に基づき障害の種類(身体・知的・精神的)に関わらず自立支援を目的としたサービスを受けられる制度です。年齢の制限はありません。(18歳未満は障害児、18歳以上は障害者、と区別あり)
でも多くの患者様・ご家族様が知りたいのはもっと具体的なことだと思います。受けられるサービスについては同じ様なサービス(ヘルパーによる支援、通所による生活介護支援、ショートステイ等)もあれば、全く異なるサービス(就労支援等)もあります。どのようなサービスが必要かは各個人で違うので、ちょっと置いておきましょう。
そもそも『介護』と『障害』とでは何が違うのでしょうか。
『介護保険』は65歳以上の方が生活する上で、加齢や疾病が原因で介護が必要になれば申請ができます。65歳以上であれば傷病名は問われません。(例外として特定の疾病を有する方は40歳以上で申請が行えます。)ここで問われるのは「介護の量」です。介護保険申請者がどの程度介護を必要としているかの量で概ねの程度が決まります。
ただし「介護の量」なので、リハビリなどで改善が認められれば見直しの時に介護度が軽くなります。病気の直後に申請して「要介護4」と重く出ていた方が半年後には「要介護1」になる、ということはしばしば見受けられます。(流動的)
※介護度については下記URL(厚生労働省HP)をご参照下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo2.html
『障害者手帳』は身体、知的、精神的に障害を負った方が申請できます。障害の程度については細かく規定があります。厚生労働省のホームページに「障害等級表」があります。こちらに該当する方は(医師の診断書があれば)申請が可能になります。
※障害等級表については下記URL(厚生労働省HP)をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/0000172197.pdf
あくまで一例ですが「第2級 4 一上肢の用を全廃したもの」と記載があります。つまり片方の腕(の機能)を全廃している方は必ず2級に該当します。別にサービスによる支援を受ける必要が無くても申請し手帳を取得することは可能です。そして原則的には全廃していることが前提なので等級の見直しは行いません。(もちろん例外もあり、定期的に等級を見直す部位もありますので、すべて恒久的ではありません)
細かいことを言うと障害者手帳と障害福祉サービスとは直接関係はありません。障害福祉サービスを受けるためには障害者手帳とは別途で「障害程度区分」の申請を行う必要があります。(この辺りがややこしく感じられる原因にもなっています)
また障害者手帳を交付されることで、障害福祉サービス以外にも得られるものがあります。医療費の減免や公共交通機関の費用の減免、税金の減免などです。これらは障がいの等級や所得によって変わってきます。
上記を踏まえて、もう一度整理してみましょう。
- 「介護保険」は高齢者が日常生活を営む上で介護が必要になった時に介護サービスを受けるときに申請をする。
- 「障害者手帳」は法律で定められた障害をおった時に障害福祉サービスを受けたり、医療費や税金の減免が受けたりできる場合に申請をする。
ということになります。
では最初に受けた質問について。
『うちの母親が2週間前に脳梗塞になってリハビリ入院をしているんです。介護保険を申請したんですが、身体障害者手帳の申請も考えているんです。』
障害者手帳を申請した方が良いでしょうか?答えは「まだできない」です。
あくまで一般論ですが、障害とは先に話した通り「機能を失い、戻ってこないもの」を指します。患者様の状態にもよりますが、脳梗塞を起こしてリハビリを行っている最中であれば「改善の余地」が残されているため、障害認定には至りません。概ねリハビリを行っても機能改善が認められない(明らかに麻痺が残存し、医学的見地からも改善の見込みがない)と判断されたときに申請が可能になります。
その際に等級が低くなり、医療費や税金の減免が受けられないことが予測される場合は、障害者手帳の申請を積極的に行う理由が減ってしまうでしょう。実際には自治体や医師の判断によって多少異なることがありますのでご注意下さい。
また『両方該当する』方もいます。例えば心臓ペースメーカーを留置され『身体障害者手帳』を持っており、『介護保険』は要介護2の方…といった場合です。このような方が、福祉サービス(通所介護やホームヘルパー等)を利用する場合は、原則として『介護保険制度』が優先されます。(もちろん例外もありますので必ず相談員に確認してください)
大きくまとめると
- 高齢者(65歳以上)はまず介護保険の申請を検討する。
- 65歳未満で障害等級表の項目に該当する方は障害者手帳の申請を検討する。
- 65歳以上でも障害者手帳を申請することでメリットがある方は申請を検討する。
ということになります。
ただし、個別に傷病の程度や年齢、社会背景等で様々に状況が変化しますし、いずれの申請を行うにも医師の診断が必要になるため、一人で悩まずに、困ったら一度病院の相談員にご相談ください。