がんのリハビリテーション

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今回はがん患者様に対してのリハビリテーションについてお話しさせていただきます。
国立がん研究センターの統計によると、年々がんの罹患者数は増加傾向にあるとされています。
がん患者の方は、がんの進行や手術や化学(薬物)療法などの治療によって、身体的にも心理的にも様々な障害が生じます。
痛み、しびれ、倦怠感、呼吸苦、筋力・体力の低下、麻痺、骨折、摂食・嚥下の障害、言語障害、不安、抑うつなどが挙げられます。
がん患者様のリハビリテーションでは、これらの障害や能力低下をできるだけ予防し、起こってしまった障害は早期に回復を図り、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の維持・向上、家庭や社会への復帰を目指します。

当院でも、がん治療のため入院される患者様が少しずつですが増加傾向にあり、がんが発見され、手術や薬物療法を受けられる方、終末期で症状が悪化される方などがおられます。
がん患者様のリハビリテーションは、研修を受けた理学療法士や作業療法士が医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどと連携しながら、患者様の病態、症状、動作能力に合わせたリハビリテーションを行っていきます。
外科手術をされてがんを摘出した患者様に対しては、手術後の安静など、入院生活で低下した筋力や体力を取り戻してもらい、できるだけ早期に退院できるようリハビリを行います。
もちろん、手術後ですので、痛みや疲労感等をみながら、無理なくできることから行っていきます。

次に、終末期の患者様のリハビリですが、終末期になると、痛みや倦怠感、呼吸苦などで動くことが少なくなることに加え、食事もとりにくくなり、痩せ、筋力、持久力が低下してしまいます。
その様な患者様には無理に動いてもらうのではなく、患者様の症状や本人の訴えに耳を傾け、今の状態にあったリハビリをするようにしています。
手術や化学療法で状態が良くなってきている患者様は、リハビリが順調に進み、筋力や体力が回復すれば自宅に帰られる方が多いです。
しかし、終末期の患者様は、少しの運動でもしんどくなってしまったり、その日によって体調の良し悪しが変化したりすることがあります。
ですが、体を動かさなければ、筋力や持久力の低下、食欲低下等が起こります。
そうすると、自宅への退院を考えた場合、食事やトイレ、入浴など日常生活動作能力が低下し、生活に大きく支障が出ます。
そのため、リハビリでの運動に加え、入院生活の中で、食事やトイレなど、自分でできることはなるべく自分でしてもらい、動作能力を維持できるよう病棟スタッフとも連携して対応します。
また、患者様の状態に合わせて、福祉用具や社会資源利用の提案などの環境調整も適宜行います。

先日、がんの症状が悪化し、入院されたがん患者様のリハビリを担当しました。
この方は、肺がんを患っており、少し歩くと息切れがするので、酸素を吸入しながら、数メートルを歩くのがやっとの状態でした。
歩行能力を維持、改善する目的でリハビリを開始しました。
入院中は体調に良し悪しがあり、体調に応じてリハビリを進めていきました。
体調の良い日はリハビリ室へ行き、筋力、持久力の訓練や歩行訓練などを行い、また天気の良い日は外出する機会も少ないことから、気晴らしも込めて車いすで屋外へ行くこともありました。
体調の悪い日は、リハビリをお休みにしたり、病室でコミュニケーションを図りながら、軽く体を動かす程度のリハビリを行ったりしました。
この患者様は入院期間も短かったこともあり、歩行能力を維持し、自宅内は一人で歩いて移動できる状態で退院してもらうことができました。
また、自宅に帰られた後、ベッドで寝ている時間が長くならないよう、自分でできるトレーニングを提示し、体調に合わせて自宅で運動していただけるよう指導しました。

これは全ての患者様に言えることではありますが、特にがん患者様との対応では、コミュニケーションが重要と考えています。
何気ない会話の中でも、患者様が今思っていることを感じとることができたり、少しでも精神的負担が軽くなればという思いがあるからです。
終末期の患者様の症状や体調や精神状態等を理解するのは簡単なことではありませんが、できる限り患者様に寄り添い、歩行や筋力トレーニングなどの身体的なリハビリテーションだけではなく、精神的なケアもできるよう、努めています。