認知症をとりまく環境

【認知症者の推計】

65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は推計15%で、2012年時点で約462万人に上ることが、厚生労働省研究班の調査で分かった。認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計。65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”となる計算で、政府は早急な対策を迫られそうだ。

日本経済新聞:2013/06/01

驚きのデータが発表されてから6年、認知症の人の推計は現在、約600万人に迫ろうとしているそうです。
65歳以上になると、年齢が5歳上がるごとに、認知症有病率は急激に増えていくことがわかっているので、後期高齢者の人口が増え続けている今後は、認知症の人数も増加していくことが予測できます。
2013年「認知症施策推進5か年計画」通称オレンジプランがスタートし、翌年、東京で開催されたG7認知症サミット後継イベントにおける安倍首相の認知症施策のさらなる推進宣言をうけ、より当事者や家族の立場に立った施策を再考し、「認知症施策推進総合戦略」通称新オレンジプランが2015年に策定されました。

【新オレンジプラン】

新オレンジプランとは
認知症の人が住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けるために必要としていることに的確に応えていくことを旨としつつ、以下の7つの柱に沿って、施策を総合的に推進していくこととしています。

1)認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
2)認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
3)若年性認知症施策の強化
4)認知症の人の介護者への支援
5)認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
6)認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル
介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
7)認知症の人やその家族の視点の重視

この戦略は、医療・介護・介護予防・住まい・生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」の実現を目指す中で、認知症について社会を挙げた取組のモデルを示しているそうです。
認知症高齢者等にやさしい地域の実現には、行政、民間、地域住民など様々な主体がそれぞれの役割を果たしていくことが求められています。
また、認知症高齢者等にやさしい地域は、決して認知症の人だけにやさしい地域ではありません。困っている人がいれば、その人の尊厳を尊重しつつ手助けをするというコミュニティーの繋がりこそが、その基盤であり、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通じて地域を再生するという視点も重要だといわれています。

【認知症の原因疾患】

認知症とは、加齢によるもの忘れとは違い、正常だった脳の働きが徐々に低下する病気です。
年をとると、買い物忘れや、知り合いや著名人の名前をすぐに思い出せなくなったり、片付けた場所を忘れたりすることが増えてきますが、認知症はそのような加齢によるもの忘れとは違い、数分前、数日間の出来事を思い出せない、体験したこと自体を覚えていない、言葉がなかなか出てこない、道具や家電を上手く使えないなどの困難が生じて、以前のように日常生活を送ることができなくなります。
認知症には原因となる疾患によって、様々な種類があります。
それぞれの特徴を知ることで、対応の仕方や介護に対する理解も深まります。

<変性型認知症>
(皮質性認知症)
アルツハイマー型認知症
レビー小体型認知症
前頭側頭型認知症 など
(皮質下性認知症)
進行性核上性麻痺
認知症を伴うパーキンソン病
大脳皮質基底核変性症
(辺縁型認知症)
神経原線維変化優位型老年期認知症

<脳血管性認知症>
大脳皮質病変型
皮質下病変型
重要部位病変型
血管炎

<脳内病変による認知症>
(脳を圧迫する疾患)
正常圧水頭症
慢性硬膜下血腫
脳腫瘍 など
(感染症)
単純ヘルペス脳炎
AIDS脳症
プリオン病 など
(自己免疫疾患)
多発性硬化症
神経ベーチェット病

<全身性疾患に伴う認知症>
(内分泌・代謝性疾患)
カルシウムなどの電解質異常
腎不全
甲状腺機能低下症 など
(欠乏症)
ビタミンB12 など
(中毒)
アルコール など
(低酸素症)
呼吸不全
心不全 など

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの「変性型認知症」は、脳の神経細胞の数が徐々に減少する病気です。
根本的な治療法はありませんが、薬によって症状の進行を遅らせることは可能です。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが原因で起こる「脳血管性認知症」は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などをしっかり治療することで予防や進行の抑制が可能です。
頭部外傷によって、頭蓋骨と脳の間に血液がたまる「慢性硬膜下血腫」や、脳室が拡大して起こる「正常圧水頭症」は脳外科手術によって治療が可能です。
また、甲状腺の働きの低下によって起こる「甲状腺機能低下症」は甲状腺ホルモンの補充で、ビタミン欠乏症に起因する認知症はビタミンの補充で改善するといわれています。

認知症の原因疾患としては、アルツハイマー型認知症が最も多く、約7割を占めています。次に頻度の高い型が脳血管性認知症、レビー小体型認知症となります。
本年度の「リハビリテーション科 作業療法士のブログ」では、アルツハイマー型認知症をはじめ、臨床でよく出会う認知症の種類や症状の特徴について、詳しくみていきたいと思っています。
また、みどり病院 リハビリテーション科では、毎年地域住民の方々を対象に、リハビリ健康教室を実施しています。
次回は、「もの忘れについて」をテーマに、2019/6/15(土)の開催を予定しております。
「認知症の症状について」や、「もの忘れのチェック」「コグニサイズをやってみよう」などを企画しております。
詳しくはホームページや院内ポスター等でご確認の上、是非ご参加ください。

【最後に】

神戸市では、認知症の人にやさしいまち『神戸モデル』が2019年1月28日に開始されました。
認知症の方やそのご家族が安心安全に暮らしていけるよう、認知症の早期受診を推進するための「診断助成制度」や、認知症の方が外出時などで事故に遭われた場合に救済する「事故救済制度」が新たに創設されました。市は賠償金支給や診断助成の制度運用に必要な経費を、年間約3億円と見込んでおり、既存の財源ではなく、個人市民税(均等割)を納税者1人当たり400円上乗せすることで賄うそうです。
全国初の取り組みだそうですね。
日々の臨床でも、認知症を発症した患者様を受け持つことがありますが、思うように動作の指示が入らず、訓練が難渋することも多いです。
時には予想もできない行動を起こされて、ヒヤッとすることもあります。
自宅で介護されている方が、24時間十分に監視することは不可能ですから、万が一の時に、このような救済制度があると安心ですね。
ちょうどこの原稿を書いている時に、実家に立ち寄りました。
兵庫県の田舎町に住んでいる両親は、今年65歳になる年です。
衝突被害軽減制動制御装置を搭載した車に買い替えようかと悩んでいました。
神戸市在住であれば、今回開始された制度を利用できる年齢になります。
『神戸モデル』が成功し、兵庫県へ全国へと拡大することを望みます。