みどり病院のリハビリテーション科には、言語聴覚士という資格をもつスタッフがいます。今までの記事で、嚥下障害(えんげしょうがい)について書かせて貰いましたが、様々な病気のため、うまくことばを話せないという症状を抱えることになった患者様のリハビリをさせて頂くこともあります。今回はその「ことばの問題」についてのお話をさせていただきます。
「ことばの問題」は、いくつかの症状がありますが、今回は代表的な2例のお話をさせて頂きます。
【構音障害】
まず、顔や口、唇や舌などの動きが悪くなったため、うまく話が出来なくなるという「構音障害」があります。言いたい言葉ははっきり浮かんでいるのに、唇や舌がしっかり動かないため話しにくい状況を構音障害と言います。少し聞き取りにくい程度という軽度のレベルから、全く発話内容が聞き取れないという重度のレベルまで様々です。
なぜ唇や舌が動きにくくなるのかというと、多い理由として脳卒中(特に脳梗塞)などが挙げられます。話しにくいという自覚はあるけど、他人と会話することは問題ない軽度のレベルから、話しても全く伝わらない重度のレベルまで様々です。そして、唇や舌が動きにくいという事は、食べたり飲んだりすることにも問題を抱える方が多いのも事実です。
そういった問題を抱える患者様には、顔や口を動かす運動などを行っていきます。
口を大きく開ける、しっかり舌を出す・ひっこめるの反復運動、舌を左右の口角(唇の端)へ交互に動かす、頬を膨らませる・へこませるの反復運動などを行います。例えば、風邪などで1週間寝たきりの生活をすると、足腰が弱るなど言いますよね?顔面も同じで、使わないと筋肉は衰えていきます。筋肉の動きで、笑ったり怒ったりする表情を作っていきます。しかし、顔面の筋肉はとても小さいものもあるので、顔や唇、舌をダイナミックに動かすことで、顔面の筋トレを行います。
脳卒中の患者様は、嚥下障害も同時に発症する場合が多くあります。そういった患者様は、しっかり顔面の運動を行うと、誤嚥(飲み込めず、食べ物が気管に入る事)のリスクを減らすことにも繋がりますので、しっかり行っておくと良いと思われます。実際、施設などでは、食事前にみんなで顔の運動を行っているところも多くあります。
【失語症】
次に挙げられるのは、「失語症」と言われる症状です。人間は、生まれた時は話ができません。しかし周囲の大人の様々なことばを聞くうちに、次第に言語を獲得していきます。今回挙げる失語症とは、一旦言語を獲得してお話も出来るようになっていた人がことばに問題を抱えるようになった場合の事をいいます。
そして失語症にも様々な症状があり、症状ごとにタイプ分類もされます。私は患者様やそのご家族様にご説明するときは、このようにお話します。
「目はしっかり見えているので、めがねをみると、何かわかるし、使い方もわかります。でもその物の名前は何かと聞かれた時に、頭に『めがね』と浮かんでいても、それを口で『めがね』と言えない状況を失語症と言います。口で全く何も言えない場合もあるし、『め…め…』しか言えなかったり、『とけい』の様に、全然違うことばが出てしまう場合もあります。」
ことばには「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つのカテゴリーがあります。人がことばを利用する上では、この「聞く」と「話す」の2つがメインとなってきますので、言語リハビリではまず初めにこの2つの項目を評価します。
そして次に、文字を使用した「読む」と「書く」があります。文字で書いてあるものを理解し、言いたいことを文字にするという項目です。文字を「読む」という行為は、上述した「話す」が関係してくることにもなります。そして、日本語は平仮名(カタカナ)、漢字が混在する言語です。これは意外と難しく、「平仮名は書けるけど、漢字が浮かばない…」といった症状がある患者様もおられます。難しいお話になってしまうのですが、音(平仮名・カタカナ)と意味(漢字)では、頭の中で理解する道筋が違うと言われているためです。
訓練方法は症状により、多岐にわたります。お話することを中心に訓練する場合もありますし、字を書くことを中心にすることもあります。絵カードを使用したり、新聞の記事を使って訓練することもありますが、私は患者様と例え時間がかかっても、ゆっくりお話をする時間を設けるようにしています。患者様のご家族様について伺ったり、どんなお仕事をされていたのかを伺ったりしますが、そういった時間の中で、患者様との信頼関係を築ける事も多いと考えています。
今日は構音障害と失語症の2つの側面から「ことばの問題」についてお話しましたが、どちらにしても、私たち人間にとって「話す」ことは1歳ごろから獲得した能力ですから、ある日お話が出来なくなるという事は、ご本人様にとってもそのご家族様にとっても、とてもショックなことです。脳卒中による失語症を抱えた患者様は、その他の症状があっても、自身の病気を理解し現状についても理解できている患者様が多くおられます。しかし、話ができない・理解ができないという事を周囲の人が認識することはとても難しいのです。ご家族様から「まるで、小さな子供を抱えた気分です…」と伺ったこともありますし、実際、悔しくて涙ながらに言語リハビリされる患者様もおられます。
それ以外にも、舌癌などで舌を切除したことで声が出なくなる、なども聞かれたことがあると思います。様々な理由でことばに障害を持つことになった方は多くおられますが、どなたにも共通して言えるのは、「言いたいことが言えない辛さ」「周りが何を言ってるか理解できない辛さ」があるということです。
出来る限り患者様に寄り添い、少しでも生活しやすい方法を考えながらことばの訓練をさせて頂きます。そして、これからもみなさまの「自分でできる」を精一杯応援させていただきます。
さいごに。
今年は近畿地方の梅雨明けが、例年に比べて10日ほど遅かったようです。8月になり連日猛暑が続いています。今年は少し出歩くことも憚られますが、エアコンがついた部屋の中にばかりいるのも身体に悪そうなので庭で子供とプール遊びをしました。しかし、30分外にいたら疲れ果てました。しっかり水分を取って、熱中症と美白にも気をつけなければと思いました。みなさんも、体調に気を付けて、元気にお過ごしくださいね。