フレイルについて ~なぜ今フレイルなのか~

【はじめに】

令和4年1月の時点で、わが国の総人口は1億2544万人、うち65歳以上の高齢者の人口は3618万9千人で、総人口に占める割合は28.8%です。団塊の世代が75歳に達する2025年までは、高齢者の割合が増加傾向となり、日本は他の先進国に先駆け、超高齢化社会へ突入してきています。それに伴い指摘されているのが、介護の問題です。要介護認定を受けておられても、なかなか思う施設に入所することができない「介護難民」や、高齢のご夫婦間での介護、高齢のご兄弟姉妹間での介護、さらに、高齢になった子がさらに高齢の親や身内の介護をするなどの「老老介護」。このような問題は、普段の業務をしていてもよく耳にします。

介護が必要になる要因として、これまでは、脳梗塞などの「疾病」を中心に考えられてきました。しかし、75歳以上の高齢者の増加に伴って、少しその趣が変化してきているようです。疾病以外に、「認知症」や「高齢による衰弱」、「転倒・骨折」などが増加してきています。つまり、病気の予防だけでなく、今回のテーマである「高齢による衰弱≒フレイル」を予防していく事が大切になってくるようです。できる限り、要介護状態に至る時期を遅らせ、健康寿命を延ばすためには、疾病予防と並行して、“フレイル予防”の認識がきわめて重要です。そこで今回は、今話題の「フレイル」について話をしてみたいと思います。

【フレイルとは】

フレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す”frailty(フレイルティー)“の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語です。現在のところ、世界的に統一された概念は存在しませんが、日本では、「要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず、精神・心理的脆弱性や、社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や、死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。」と定義されることが多いようです。

少しかみ砕いてみると、高齢者は、高血圧や糖尿病、心不全、骨粗鬆症などの慢性疾患やさまざまな病気を抱えているケースが多く、また加齢に伴い身体的機能が徐々に衰えてきます。さらに認知機能の低下がみられたり、ストレスに対して脆弱になるなど、精神面の低下も相まって、生活機能が落ちたり、心身の脆弱性が加速されたりする危険性が高いことが知られています。このような状態がフレイルです。

しかし、フレイルは完全に介護が必要な状態ではなく、適切な生活改善や治療などを行っていくことで生活機能が以前の状態に改善する可能性があること(移動性)が示されています。つまり、フレイルとは、健康な状態と介護が必要な状態との中間地点にある状態のことなのです。

これは、個人的な意見になりますが、「虚弱」や「老衰」「衰弱」といった言葉よりも、「フレイル」のほうが、移動性に着目しているため、前向きな印象が強いと思います。

フレイルの種類は、脆弱になる領域別に「身体的フレイル」「認知的フレイル」「社会的フレイル」「オーラルフレイル」に分けられています。フレイルが要介護状態の前段階であると考えると、必ずしも身体的な要素だけではなく、社会的な要素や、精神心理的な要素が関わってきますので、これらの要因が重要であることは分かりやすいと思います。さらに、これらの要因が重なることでさらに状態がどんどん悪化していくことが特徴です。

たとえば、「膝が痛くて思うように歩けない」→「外出するのが億劫になる」→「引きこもりがちになって誰とも会わない生活をしている」→「活動性が低下しさらに筋力低下を引き起こす」など、身体機能が低下することによって社会との関わりが低下し、認知機能の低下を引き起こし、それらが続くことで、さらに心身の機能がどんどん衰えていくという、まるでドミノ倒しのような危険性があるのです。一つ一つは小さな事でも、注意が必要です。

厚生労働省ホームページより抜粋

【フレイルの評価】

フレイルの評価はいくつかありますが、介護予防の観点からよく使用されているものを紹介したいと思います。「CHS基準」という評価法は、Friedらが提唱しており、加齢に伴って現れる身体機能の老衰徴候をとらえる考え方です。5つの徴候のうち3つ以上に該当する場合を「フレイル」、1~2つに該当する場合を「プレフレイル」、いずれにも該当しない場合を「健常」と3つのカテゴリーに分類しています。

この方法は、身体的フレイルの代表的な評価法として位置づけられていますし、医療機関を受診しなくても比較的簡単に評価することができますので、介護予防事業でもよく用いられています。

これとは別に、筋肉量の減少を簡便に評価する方法として、「指輪っかテスト」というものがあります。ご自身の親指と人差し指で輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い部分にはめてみます。指とふくらはぎに隙間ができる場合は、筋肉量が減少しているサルコペニアの疑いがあります。サルコペニアは、身体的フレイルの重要な要素と考えられています。この評価は今すぐにでも試すことができますので、是非行ってみて下さい。

※サルコペニア…加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のこと

厚生労働省ホームページより抜粋

【フレイルの予防と対策】

現状では、フレイルに対する有効な治療法や薬は見つかっていません。フレイル状態であると判断された場合は、更なる心身機能の低下を防ぐためのリハビリテーションや生活改善を行う必要があります。
具体的には、適正な筋肉量や骨量を保つために適度に運動をすること、しっかりと栄養バランスのとれた食事をとること、趣味や習い事など社会参加を生活に取り入れることが大切であると考えられています。

フレイルに対する運動プログラムは、筋力トレーニングやバランストレーニング、ウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせて行うのが重要だと言われています。トレーニングの運動強度は、中等度から高強度が良いといわれていますが、始めから過度なトレーニングをするのではなく、ご自身の状態に合わせて少しずつ運動強度を上げていくことが重要です。トレーニング時間は、1回1時間で週に3回、継続期間は10週以上行うことが重要とされています。

栄養については、たんぱく質の摂取量や微量栄養素(ビタミンやミネラルなど)、食事内容の質(摂取食品の多様性)、抗酸化作用を有する食品摂取などがフレイル予防に重要な要素として挙げられています。また、筋肉量を増やしていくには、1日標準体重kgあたり1.2~1.5gのたんぱく質摂取が推奨されています。

【おわりに】

フレイルはここ数年医療現場でもよく聞く言葉です。フレイル状態になると、予備能力が低下しています。わずかな程度、わずかな時間、生活に制限を受けたとした時、フレイル高齢者は、フレイルではない人に比べ、身体機能面へのダメージも大きく、回復に要する時間も長くなってしまいます。

例えば、「尿路感染症で入院した」というケースを想像してみてください。同じレベルの侵襲(この場合は、尿路感染症での入院)が加わったとき、フレイル高齢者では、フレイルではない人に比べ、身体機能の低下はより大きく、介助を必要とする状態にまで陥ってしまう事があります。そこからの回復にも時間がかかってしまいます。さらに、回復しても、もとの身体機能のレベルまで回復しないことすらあります。

すなわち、フレイル高齢者は、侵襲に対するダメージが大きいことが分かります。そのため治療や手術の選択にも影響を及ぼしてしまうことがあります。一つ一つは小さな老化現象だと思って放っておくと、気付かないうちにフレイルは進行してしまいます。日ごろから運動習慣、生活習慣を見直し、フレイルを予防していきましょう。リハビリテーション科は、あなたの自分で出来るを応援します。