6分間歩行試験(6MWT)~できるだけ長く歩いて下さい~

<運動耐容能>

みなさんは、「運動耐容能」という言葉を耳にされたことはありますか。運動耐容能とは、いわゆる“体力”のことで、身体がどのくらいまでの運動(負荷)に耐えられるのかの能力を意味します。持久力(運動を続ける力)や有酸素能力(体内に酸素を取り込む力)なども含まれ、心臓や肺、筋肉など全身の働きを調べる指標となるものです。運動耐容能は人によって異なり、さまざまな因子によって規定されます。

みなさんが、歩いたり走ったりの運動をしている際に、その負荷(スピードや距離)がだんだん大きくなっていった場合、必要に応じて身体が取り入れる酸素の量は徐々に多くなります。しかし、その後しばらくするとそれ以上運動を続けられない状態に達します。その時の負荷や酸素摂取量(最高酸素摂取量;peak VO2)がみなさんの運動耐容能であると言えます。

心疾患や呼吸器疾患の方では心肺機能の低下が生じますが、加えて疾病により運動制限を余儀なくされることで、安静による脱調節(デコンディショニング)(※1)に陥り、さらなる心肺機能の低下や筋萎縮・筋力低下が生じ、運動耐容能は著しく低下してしまいます。また、脳血管疾患や整形外科疾患でも同様に脱調節が生じ、運動耐容能の低下が起こります。

このように、リハビリの対象となる患者さんの移動能力や日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)は、運動耐容能にも大きく左右されるため、さまざまな規定因子を検査・測定し、低下した運動耐容能を向上させるために適切な運動療法(有酸素運動や筋力トレーニング)を行うことが重要です。

少し導入が長くなってしまいましたが、このような運動耐容能を評価する検査のひとつが、今回の記事のテーマである、6分間歩行試験(6MWT)です。

(※1)脱調節(デコンディショニング):過度な安静や長期臥床によって起こる筋骨格系障害や自律神経障害、内分泌障害などの種々の身体調節異常のことです。骨格筋量・筋力の低下、骨粗鬆症、運動時心拍数の上昇、起立性低血圧、運動能力低下、呼吸機能低下などが挙げられます。

<6分間歩行試験(6MWT)>

≪歴史・特徴≫
6MWTは、1985年にGuyattらによって慢性心不全患者の運動耐容能の評価法として最初に提唱された運動負荷試験であり、2002年にはATS(アメリカ胸部医学会)からガイドラインが発表され、方法の統一が提案されました。さらに2014年にはATS/ERS(欧州呼吸器学会)の合同でシステマティックレビューとテクニカルスタンダードが発表されました。

30mの平坦な直線コース(15m以上であれば結果に影響しないとの報告あり;両端に折り返し地点を設置)を、6分間でできるだけ速く、長い距離を往復歩行してもらい、その歩行距離から運動耐容能を評価する方法です。加えて、歩行の前後で血圧や脈拍、SpO2 (経皮的酸素飽和度;パルスオキシメーター)、呼吸数、Borg scale(自覚的運動強度;息切れ・疲労感)(※2)などを測定し評価します。

他の運動負荷試験と比べ、特殊な機器を使用する必要がなく簡便であり、患者自らが運動ペースを調整できて安全である上、歩行という運動様式から得られる指標であるため日常生活に即した運動能力を評価できるという特徴があります。

(※2)Borg scale(自覚的運動強度)

≪目的・意義≫
呼吸器疾患や心疾患患者の運動耐容能の評価では、臨床的にも研究にも標準的な検査となっています。特に、中等度から重症の呼吸器・心疾患治療の効果判定や日常生活における機能障害の重症度評価、在宅酸素療法を施行中の方や導入を検討されている方の運動耐容能等の評価および治療方針の決定などに用いられます。

この検査で得られた歩行距離は、NYHA心機能分類(日常生活での身体活動能力に基づいた重症度分類)や最高酸素摂取量(peak VO2)と高い相関を示し、予後の予測にも有用であるとの報告があります。特に慢性心不全患者の生命予後や心不全増悪による再入院の予測因子としても頻用されています。同一患者における6分間歩行距離の改善度が治療効果や予後良好の指標となることも報告されている一方で、年齢や性別、体格の影響を受ける検査であり、異なる患者間での比較をする場合には注意が必要とされています。

≪禁忌・中止基準≫
絶対禁忌は1ヵ月以内に生じた不安定狭心症または心筋梗塞、相対禁忌は安静時心拍数120拍/分以上や血圧180/100mmHg以上です。また、検査の中止基準としては、胸痛や強い呼吸困難、下肢の痙攣、ふらつき、多量の発汗、顔面蒼白、チアノーゼ等があります。

≪方法・注意点≫
・30mの平坦な直線コース(当院では15m;両端に折り返し地点を設置)を、6分間でできるだけ速く、長い距離を往復歩行してもらい、その歩行距離を測定する。
・歩行の前後で血圧や脈拍、SpO2、呼吸数、Borg scaleなどを測定する。
・歩行中もパルスオキシメーターを装着し、脈拍やSpO2の変動を測定する。
・対象者が酸素療法を行っている場合は、労作時の処方流量で検査を実施し、流量や酸素の運搬方法を記録する。
・検査前2時間以内の強い運動は避ける。
・検査前のウォームアップは不要、検査開始10分前にはスタート地点の椅子に座り安静を保つ。
・動きやすい服装、靴で実施し、杖や歩行器を常用している場合は検査時も同様に使用する。
・歩行中、対象者への声かけは決まった言葉(下記)で一定の声の調子で行い、それ以外の声かけはしない。

<検査中の声かけ>
1分後:「うまく歩けています。残り時間はあと5分です。」
2分後:「その調子を維持してください。残り時間はあと4分です。」
3分後:「うまく歩けています。半分が終了しました。」
4分後:「その調子を維持してください。残り時間はもうあと2分です。」
5分後:「うまく歩けています。残り時間はもうあと1分です。」
残り15秒:「もうすぐ止まってくださいと言います。私がそう言ったらすぐに立ち止まってください。私があなたのところに行きます。」
6分後:「止まってください。」

・歩行中、検査者は対象者と一緒に歩いてはいけないとされている(ATSガイドライン)が、リスク管理上必要な場合は、対象者の歩行のペースを乱さないよう斜め後方に位置する。
・歩行中、休憩が必要な場合は立ち止まったり壁にもたれかかったりして何度でも休むことができ、可能となれば歩行を再開する(時計は止めず、休憩時間や回数を記録)。また、歩行困難となり途中で中断する場合は、その理由や時間、距離を記録し検査を終了する。

≪結果の評価・解釈≫
6MWTでは、疾患も体格も異なる被検者の結果(歩行距離)を比較し意味づけすることが難しく、解釈方法については、まだ一定の見解がなく、同一被検者において歩行距離の変化を評価することが推奨されています。一般的には、「400m以下になると外出に制限が生じ、200m以下では生活範囲が極めて身近に制限される」と言われています。

海外の研究では、2003年にEnrightらによって健常高齢者における6分間歩行距離の予測式が発表されており、日本人を対象とした予測式については、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会が平成24年から取り組んでおり、報告が待たれるところです。また、過去には以下のような報告もあります。

・300m未満の患者では予後不良。
・慢性心不全患者において、240m以下の群は予後不良。
・COPD(※3)患者では、370m未満で死亡率が上昇、入院の増加が認められた。
・慢性心不全患者では、45mの改善で有意に治療効果があったといえる。
・COPD患者では、70m以上の改善で有意に治療効果があったといえる。
・運動効果の自覚的な改善を得るためには、50m以上の増加が要求される。
(※3)COPD(慢性閉塞性肺疾患):タバコの煙などの有害物質が長期にわたって肺や気管支を刺激することで炎症が起こり、呼吸が障害され、酸素不足により息切れを起こす病気です。

≪当院での6MWT≫
当院でも、呼吸器や心疾患の患者の運動耐容能の評価のため、医師の指導管理の下、リハビリテーション科の理学療法士が6MWTを実施しており(2021年度:計67件)、中でも、心臓血管外科で心臓弁膜症(弁形成・弁置換)手術や冠動脈バイパス手術を行う方の評価のための実施が最多となっています。

特に、当院でも症例数の多い、心臓弁膜症手術の場合は、発病から手術までの罹患期間が比較的長く、原疾患による心不全と長期の低運動期間に基づく脱調節(デコンディショニング)によって、術前の運動耐容能が大きく低下してしまっている方も珍しくありません。

また、心臓血管外科術後の運動耐容能の回復には一定の期間を要し、術前と比較して術直後や退院時には低下し、その後半年~1年程で回復していくとの報告もあります。そのため当院では、術前や術後退院前に加え、外来にて術後半年や1年後、2年後、と定期的に検査を行っています。

ということで、今回は6分間歩行試験についてお話させていただきました。昨今の新型コロナウィルス感染症の流行下では、「新しい生活様式」の実践や感染対策と向き合う中で、おうち時間が増えて運動不足、人と会う機会も減って気分も滅入り、食生活も乱れがちに…と、心身の健康を脅かす二次被害も懸念されています。特に中高年齢者については、生活習慣病等の発症や体力・生活機能の低下をきたすリスクが高まります。運動耐容能の維持・向上だけでなく、ストレス解消、免疫力強化のためにも、ウォーキング等の有酸素運動や筋力トレーニングなど適度な運動を無理のない範囲で継続して行いましょう。

みどり病院リハビリテーション科は、あなたの自分でできるを応援します。一日も早い新型コロナウィルス感染症の終息と、みなさんの健康を願いながら。

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