腓骨神経麻痺について~リハビリテーションと日常生活上での注意点~

皆様の中に、「最近何もないところでつまずく」や「足首の上りが悪くなった」などと感じる方はいませんか。もしかしたら足の末梢神経が障害されたことが原因かもしれません。その末梢神経障害のなかの一つの腓骨神経麻痺についてお話したいと思います。

【腓骨神経麻痺】

〈病態〉

腓骨神経は膝関節の後方で坐骨神経から分岐し、膝外側にある腓骨頭部の後ろを巻きつくように走行します。この神経が命令を出すことで、足首を上げる筋肉である前脛骨筋や、足の指を上げる長短母趾伸筋や長短趾伸筋などの筋肉へ作用します。また骨と皮膚・皮下組織の間に神経が存在するため、腓骨頭部の外部からの圧迫により容易に麻痺が生じます。

〈原因〉
  • 足の骨折の整復のために行われる下肢の牽引などで、仰向けに寝た姿勢が続く。
  • 骨折などでギプス固定される。
  • 手術後などで、つま先が外に向いたままで寝ている時間が続く。
  • ガングリオンなどの腫瘤、腫瘍、開放創や挫傷(ケガ)、腓骨頭骨折やその他の膝の外傷など。
〈症状〉
  • 感覚障害
    膝から下の外側から足の甲にかけてと、足の小指を除いた足の指のしびれ、感覚が鈍くなったり、全くわからなくなったりもします。(足の小指は腓腹神経という他の末梢神経が支配しているため、ここでは除かれます。)
  • 運動障害
    つま先を上げられない。
    足首から下が重力に逆らえず垂れ下がる(下垂足:drop foot)
〈診断〉
  • 視診
    下垂足(drop foot)になっていないかを目で見て診察します。
  • 筋力検査
    前脛骨筋や足趾伸筋の筋力を徒手にて測定します。
  • 感覚検査
    下腿外側から第5趾を除く足趾の感覚の有無やしびれの有無を、筆などを使用し確認します。
  • 筋電図検査、神経伝達速度検査
    筋肉や神経に電気を流し、どのくらいのスピードで電気刺激が伝わっているか、また電気刺激が伝わるまでの時間で判定します。
  • X線(レントゲン)検査
    MRI検査
    ヘルニアや坐骨神経障害などの別の障害との鑑別のために行います。また、圧迫の原因となる、皮下腫瘍やガングリオンの有無を確認します。
  • 超音波検査
    神経の太さや腫瘍などの有無を確認します。
〈治療〉
  • 手術療法
    重症な場合や骨折や脱臼などの外傷や腫瘤によるものは手術が必要です。神経への圧迫を取り除く、神経の縫合・剥離・移植などが行われます。その他にも腱移行術という、障害を受けた筋肉とは別の筋肉に移し替えることで動かすようにする手術もあります。
  • 保存療法
    原因が明らかでないものや回復の可能性のある場合は保存的治療をします。服薬(ビタミンB12)や運動療法、物理療法、装具療法、などです。
    保存療法のなかの「運動療法」「物理療法」「装具療法」は、私達理学療法士が直接評価し、治療を進めていくため、それぞれについて説明したいと思います。
「運動療法」

主に筋力低下した筋肉に対し、筋力検査で測った筋力を元に、その人に合った負荷量で筋力増強訓練を行います。特に腓骨神経麻痺の方は、前脛骨筋や足趾伸筋群が筋力低下するため、筋の収縮を促します。また、足首が動きにくい影響で可動域制限も起こしやすくなります。そのため可動域の維持・改善に努め、足首が固まらないようにします。また合わせて日常生活上での注意点など指導します。それでも改善が乏しい場合、筋力を補うための装具の装着を検討したり物理療法など他のアプローチを取り入れたりします。

「物理療法」

物理療法の中でも、電気治療が有効とされています。筋肉に電気刺激を加えることで、筋収縮を強制的に引き起こさせる方法です。電気刺激を加えることで、筋委縮を予防し、さらに運動療法と併用することで、筋力の改善が期待できます。

「装具療法」

足部を固定することで、つま先が引っ掛かるのを防ぐために使用する、下腿装具というものがあります。運動療法や物理療法でも改善が見られにくい場合、代替手段として使用されます。よく使用される装具の種類にはオルトップというプラスチック製の装具があります。
これは軽量ですが、足首を上げた状態に保つことが出来るため、歩く際のつま先の引っ掛かりが少なくできます。また装着したままでも靴が履けるという利点もあります。

《日常生活上での注意点》
普段からつま先が上がりにくくなっている場合、何もないところでも躓きやすくなっています。足元を見て歩くようにするなど、注意して歩く必要があります。

自宅内にも転倒のリスクが潜んでいます。絨毯はつま先が引っ掛かりやすく転倒のリスクが高いです。可能であれば避けた方が良いでしょう。また足の指が上がりにくい方はスリッパでは、より上がりにくくなります。もし室内履きが必要なら、踵まで覆われているタイプが良いです。また、もし装具を付けている方は自宅内でも使用できる仕様にすると良いでしょう。

他にも、ヒールや踵が高い靴は、つま先が上がりにくくなります。転倒のリスクが高まるので運動靴などの動きやすい靴に変更しましょう。

〈最後に・・・〉

新型コロナウイルスの感染症法の分類をインフルエンザと同じ5類に、5月にも移行になるとの発表がありました。それにより、自粛生活から解放される一方で、感染症対策が緩むことで、今までよりも新型コロナウイルスがさらに身近になる可能性があります。皆様も気を付けながら、今まで我慢してできなかったことを、羽目を外さない程度に出来たらいいですね。

今回紹介した腓骨神経麻痺は、先ほど述べた日常生活上での注意点を、気を付けることで転倒が予防できます。また当院でも外来リハビリテーションがあり、私達理学療法士が運動療法や物理療法、装具療法などで皆様の機能改善に努めます。しかし、医療機関への受診が大前提となりますので、心当たりがある方はまずは受診をオススメします。

みどり病院リハビリテーション科はあなたの“自分でできる”を応援します。