認知症検査とは?~早期発見・早期治療のために認知症検査を受けてください~

<はじめに>

認知症は、高齢化社会の進展とともに患者数が年々増加しています。厚生労働省の報告によると、平成24年の認知症患者数が462万人であるのに対し、令和2年には602万人へと増加がみられていました。10年後20年後には更に増加していくと予測されています。

また、認知症の中でも特に多いアルツハイマー型認知症は、根本的な治療方法は確立されておらず、認知症の進行を遅らせることを目的とした“維持的治療”がほとんどといわれています。そのため、認知症は早期発見・早期治療が大切になります。そこで今回は、認知症の早期発見をするために必要である認知機能検査についてお話していこうと思います。

<認知症とは>

はじめに、認知症とはどういった病気なのかについて簡単に説明したいと思います。
認知症は、加齢による物忘れとは異なり、様々な原因で脳細胞の働きが悪くなり、認知機能(記憶力や集中力など)が低下し、物忘れや理解力・判断力が落ち、今まで当たり前に出来ていた日常生活動作(食事や排せつなど)が少しずつ難しくなってしまう病気です。

<認知症と加齢による物忘れ>

加齢によっても物忘れが生じることがあります。認知症の物忘れと加齢による物忘れとはどのように異なるのでしょうか。例えば、認知症の方はご飯を食べたこと自体を忘れている状態に対し、加齢による物忘れでは献立の内容を一部忘れてしまうというような違いがあります。

しかし、実際にご自身やご家族の物忘れに対して、認知症か加齢によるものかを見分ける事は難しいと思います。そのため、物忘れは勿論のこと、その他にも気になる症状がある場合は次にお話しする認知機能検査を受けることをお勧めします。

<認知症検査について>

□認知症の相談は何科にする?

認知症の疑いがある場合は、まずはじめにかかりつけの病院に相談してください。かかりつけ医から適切な病院を紹介してもらえるだけでなく、病歴や現在の状況を詳しく伝えてもらえるため、スムーズに認知症の専門診療を行っている病院への受診が可能となります。かかりつけ医がいない場合は、認知症の診療を行っている専門病院へ相談してください。また、近隣の地域包括支援センターで相談することも可能です。

□認知症検査の流れ
①面談・診察

医師が現在の状況や経過について、認知症の可能性がある本人や家族へ聞き取りを行います。認知症は本人が気づいていない場合が多いので、正しく診断を受けるためにも日常的に関わりのある家族から客観的な情報を伝えることが大切になります。そのため、可能な限り、家族と一緒に来院することをお勧めします。

<家族から医師に伝えて頂きたい内容>

  • いつ頃から、どのような症状に気付いたか
  • 家族はどのような症状で困っているか
  • 日常生活にどのような支障や困難が生じているか
  • 半年間に症状が進行しているか など…
②神経心理学検査

認知機能低下のスクリーニング検査のことです。この検査はいくつか種類がありますが、検査内容は共通しており、質問に対して口頭で答えて頂いたり、作業(文字や絵を描くなど)をして頂くものになっています。よく使われる検査をいくつか紹介します。

・日本語版ミニメンタルステート検査(MMSE-J)
国際的に最も使われている認知機能検査です。この検査では、見当識(日付や場所の認識が正しいか)・注意力・記憶力・言語機能・空間認知(図形が正しく見えているか)の質問項目(全部で11項目)に答えて頂き、30点満点で合計点数を出します。合計点数が23点以下で認知症の疑いがあると判断されます。

・長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
この検査は、見当識・注意力・記憶力・言語機能の質問項目(全部で9つの質問項目)に答えて頂き、30点満点で合計点数を出します。合計点数が20点以下で認知症の疑いがあると判断されます。HDS-RはMMSEとよく似た内容の検査ですが、MMSEよりも記憶力に重点を置いている検査です。

・日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)
MoCA-Jは、上記2つの検査とは異なり、軽度認知障害(認知症予備軍)に対する検査です。この検査では、見当識・注意力・記憶力・言語機能・空間認知・概念的思考(あるものの共通点をみつける)の質問項目(全部で10項目)に答えて頂き、30点満点で合計点数を出します。合計点数が25点以下で軽度認知障害の疑いがあると判断されます。

検査の種類は沢山ありますが、全ての検査で共通していることは、どの項目が低下しているかを評価することで、その人の認知機能低下の特徴を知ることができる点です。(例:質問項目の中で特に記憶力が低下している⇒アルツハイマー型認知症の疑いなど)しかし、認知機能検査はあくまでも認知症の疑いの有無を判断するものであり、実際に認知症と診断を受けるには、医師の診察や脳画像検査などが必要になります。

③脳画像検査

脳画像検査では、CT・MRIなど医療機関で撮影した画像をもとに、脳の大きさや脳内の血流に異常がないかを確認します。

<神戸市認知症検診について>

神戸市では、平成31年より認知症の早期受診を支援するために、自己負担なく認知機能検診を受診できる「認知症診断助成制度」というものを実施しています。対象者は、65歳以上の神戸市民の方です。検査を希望される方は、神戸市総合コールセンターへ電話をするか、神戸市のホームページから申し込みをしてください。

受診券が郵送された後、受診可能な医療機関で認知機能検診(第一段階)を受け、認知症の疑いが「ある」か「ない」かを判断します。疑いが「ある」と判断された方は認知機能精密検査(第二段階)を受けて頂くという流れになります。

2023年6月19日神戸市ホームページの記載より

□事故救済制度(神戸市)

神戸市の認知症診断助成制度を利用し認知機能検査を受けた後、認知症と診断された場合は「事故救済制度」という支援を受けられるようになります。
事故救済制度とは、賠償責任保険制度・事故救済制度専門コールセンター・GPS安心かかりつけサービス・見舞金(給付金)制度の4つの支援を無料(一部有料)で受けられるようになります。内容を簡単に説明すると、認知症の方が事故を起こされた場合に、神戸市が24時間事故の対応を行い、保険料の負担・お見舞金を給付するという制度と、認知症の方が行方不明になった場合にGPSの位置情報を頼りに早期発見のお手伝いをする制度です。

実際にこの「認知症診断助成制度」を利用されている方は、平成31年から令和3年までで、認知機能検診(第一段階)受診者数が39,528人、認知機能細密検査(第二段階)受診者数は7,755人おられます。「事故救済制度」の利用件数は、13件となっています。
当院も神戸市認知症検診(第一段階)の対象病院となっているので、気になる方がおられましたら、気軽にご相談・ご予約お待ちしております。

<おわりに>

認知症を発症すると、今まで当たり前にできていた日常生活活動(トイレやお風呂に入ること、食事をとることなど)や手段的日常生活活動(買い物に行ったり、料理をすることなど)が徐々に思うようにできなくなっていきます。そのため、認知症発症後は、本人はもちろんのこと家族も身体的・精神的につらいことが増えていくと思います。

認知症患者さんと生活するうえで大切なことは、お互いの身体的・精神的負担をなるべく早期に減らすことだと私は考えています。負担軽減のためには、介護保険を使用した介護サービスの利用や、医師、看護師、セラピストから患者さん一人一人に合わせた生活指導を聞くことなど生活に様々な工夫を取り入れることが必要になります。

進行していく認知症と上手く向き合い、付き合っていくためにも、少しでも自分や家族が認知症なのでは?と気になったその時に検査を受け、早期発見や適切な治療、対応につなげて頂きたいと思います。私自身、これからも認知症によって生活が送りにくくなっている方々の負担や悩みが少しでも軽減できるような支援を行い、一人一人に寄り添えるようなセラピストを目指していこうと思います。

~私たちは、あなたの“自分でできる”を応援します~