大腿骨頸部骨折について~術後から退院後の生活~

高齢になれば、バランス機能などの低下を生じることや、色々な全身合併症をもつ方も多いため転倒のリスクは増加します。そこに、円背のような不良姿勢が伴えば、つまずきなどでバランスを崩してしまうことが増え、さらに、下肢の筋力低下も合併し、転倒してしまうことが多くなると考えられます。高齢者が転倒した際に起こりやすい骨折として、「大腿骨頸部骨折」「橈骨遠位端骨折」「上腕骨近位端骨折」「脊椎椎体圧迫骨折」が挙げられます。その中で今回は「大腿骨頸部骨折」についてお話させて頂きます。

【原因】

大腿骨頸部骨折の原因の多くは、転倒時に大転子(股関節の横あたりにある少し出っ張った部分)を強打したり、膝をついて大腿骨(太ももの骨)を捻った際に生じることが多いと言われています。また、屋外より屋内での受傷が多く、加齢による身体機能の低下や注意力の低下が要因として挙げられます。視力障害のため障害物を見落としてしまう事なども転倒の要因になると考えられます。

【症状】

特徴としては、痛みが強いことが挙げられます。体を支える役割のある大腿骨を骨折してしまうと、足の付け根に痛みを感じて立ったり歩いたりすることができなくなります。また、大腿骨頚部が骨折していると、仰向けの状態から膝を立てたり足を持ち上げることができなくなることも症状のひとつです。

【治療】

治療方法としては、保存療法と手術療法があります。

〈保存療法〉

骨折部位が安定するまで数週間から数ヵ月間、骨折部の安静を保つ必要があります。長期の安静により筋力低下が起こり、認知症・肺炎・褥瘡(じょくそう:床ずれ)などを発症し、寝たきりになる可能性が高いとされています。また、骨折の修復過程は、「骨膜の骨形成細胞や血腫内の白血球・単球・貪食細胞、血小板中の生物活性を有する成長因子の作用により、仮骨が形成される。」と報告されています。大腿骨頸部の関節包内には骨膜がなく血腫が凝固しにくい状況下のため、骨の修復が起こりにくいという特徴があり、骨が元の状態のように修復されなかったりします。

簡単に言うと、「他の部位に比べ、大腿骨頸部の骨折の場合、骨折部周囲の血流が乏しいため骨がひっつきにくい」ということになります。多くの方が手術をされますが、全身状態が悪く、手術をすることでむしろ危険な状態になる場合や、本人様・家族様の意思で保存療法を選択される場合があります。

〈手術療法〉

手術療法は、骨接合術と人工骨頭置換術などがあります。

  • 骨接合術:ピンなどを用いて骨折部位を固定する手術です。手術による負担は少なく、転位(骨折のズレ)が少ない時に行われます。
  • 人工骨頭置換術:大腿骨の股関節部分を切り取って金属やセラミックでできた人工骨頭と交換する手術で、転位(骨折のズレ)が大きい時などに行われます。大腿骨頭壊死などの合併症を避けられますが、手術後は脱臼を起こすことがあるため、深くしゃがむ、股関節を大きく捻るなどの動作はしないように気を付ける必要があります。

(脱臼の姿勢については【退院後の生活について】で述べていますのでご参照ください。)
※上記以外の手術の方法もあります。また、手術の方法によって、脱臼しやすい運動方向や程度が異なります。医師に正しい動作方法を確認しておくことが大切です。

【リハビリテーション】

高齢者では寝たきりの時間が長くなると、関節の拘縮(こうしゅく:固くなること)や筋力低下、認知機能の低下など多くの合併症が起こりやすくなります。それらを防ぐためにできるだけ早期からリハビリテーションを開始していきます。

まずは、ベッド上で骨折部位の痛みや腫れ、術創部の状態や熱感など、股関節がどのくらい動かせるのか、また筋力はどのくらい保たれているのかなどを評価していきます。その他に体幹や膝関節、足関節などの股関節以外の場所の問題点の有無も評価します。

図1.膝の裏にタオルなどを入れ、タオルをベッドに押さえつける

痛みなどに注意しながら図1、図2のような運動を術後早期から行っていきます。その後、全身状態などを見ながら車椅子への移乗や立位訓練を行っていきます。徐々に筋力トレーニングの負荷を大きくし、歩行器や杖を使用した歩行訓練や階段昇降訓練などを実施します。(図3、図4)

図2.足首をパタパタと上下に繰り返す

図3.座った状態での膝の曲げ伸ばし

図4.立った状態での足の横上げ

必要であれば、屋外での歩行訓練も行い、退院後も安全に過ごして頂けるようにサポートしていきます。大腿骨を骨折すると、例えばそれまで何も使わずに歩けていた人であれば杖が必要になったり、杖で歩いていた人は歩行器が必要になったりといったように、より安全に歩く方法を検討する必要も出てきます。より良い生活を過ごして頂くために、患者様に合ったものを提案していきます。

【退院後の生活について】

大腿骨頸部骨折は転倒による受傷がほとんどです。そのため、転倒を防ぐことは再骨折の予防にとても大切です。
入院中にリハビリテーションスタッフや社会福祉士と相談し、住環境の調整などを検討します。例えば、玄関や廊下、トイレ、浴室などに手すりをつけたり、杖や歩行器を用意したりといったものです。私自身も、一人一人の患者様の動きや日常生活に合ったものを提案できるよう心掛けています。また、床や段差のある場所が暗く(転倒リスク)ならないよう足元を照らすなど照明を調整する、床にあまり荷物を置かず整理しておくなども転倒を防ぐ対策の1つです。

人工骨頭置換術などを行った患者様は前述の通り脱臼に注意が必要です。術後から8週までの術後早期で脱臼の頻度は高く、術後期間の経過とともに減少すると言われています。しかし、1年以上経過した方でも脱臼することがあるという報告もあります。そのため、日常生活上の脱臼防止は生涯にわたり注意する必要があります。

また、大腿部のどこから手術をしたのかによって脱臼しやすい動作が異なります。手術の切開方法(アプローチ)としては、「後方アプローチ」、「側方アプローチ」、「前方アプローチ」などがあります。例えば、「後方アプローチ」の場合、低い椅子に座る、靴や靴下の着脱の際に膝が内側に入る(膝の外側から手を伸ばす)、床の物を拾う際に手術した足を前に出す、などの動作が脱臼の危険があります。そのため、股関節が曲がりすぎないような少し高さのある椅子に座る、靴下の着脱は反体側の太ももに足を乗せて行う、靴を履く際は靴べらを使用するなどで脱臼を防ぐことが出来ます(図5)。

「前方アプローチ」の場合は、手術をした足が後方・内側に入った状態で高い所の物を取る、うつ伏せの状態から体を捻り起き上がる・物を取る、などは脱臼肢位となります(図6)。そこで、脱臼肢位とならないように、台を使用したり、楽な姿勢で取れるような場所に物を置く、うつ伏せの状態からではなく体全体を横に向けてから起きるように注意しましょう。

図5.「後方アプローチ」手術の場合の脱臼肢位と対策例

図6.「前方アプローチ」手術の場合の脱臼肢位

【まとめ】

今回は、「大腿骨頸部骨折」についてお話させて頂きました。まずは、受傷前から転倒予防に努めることが大切です。本文でもお話ししたように、例えば床に荷物を置かない、足元が照らされるように照明を調整する、歩行が不安定な際は杖や手すりを使用するなどの予防策を行ってください。

退院後は、手術をしても今までとは異なる生活になることがあり、日常生活や転倒に対する不安をもつこともあるかもしれません。私も担当させて頂いた患者様から「退院した後、大丈夫かな。」「家で生活できるか不安やわ。」と言われることがあります。患者様の気持ちに寄り添い、より安心して生活を送れるようサポートさせて頂きます。

また、大腿骨頸部骨折診療ガイドラインには「医療制度によって急性期施設での入院日数は短くなるため、急性期施設退院後のリハビリテーションが重要となっている。そのリハビリテーション期間は3~6ヵ月は必要との報告が多い」と記されています。当院では、患者様によって異なりますが、入院リハビリテーションを概ね1~2ヵ月間行い、退院後に外来リハビリテーションを3~4ヵ月間ほど継続することがあります。医師や担当リハビリテーションスタッフと相談し、リハビリテーションの継続も検討してみてください。
みどり病院リハビリテーション科はあなたの“自分でできる”を応援します。