認知症の人を理解しよう!~ご本人の気持ちに寄り添う認知症介護~

今回は一つのドキュメンタリー番組を題材に認知症について考えてみたいと思います。この番組は介護に携わる者にとっても非常に考えさせられる内容でした。なお、この題材については3月に開催する研修会で職員皆が集まって考える予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、研修会が延期となったため、先に内容だけをご紹介するものです。

■NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」を見て

自らの認知症を公表
認知症簡易検査で使用される長谷川式スケールといえば介護に携わっている誰もが知る検査方法です。その検査を考案した認知症医療の第一人者で精神科医の長谷川和夫先生は2017年、自らが認知症であることを公表されました。なぜ公表したのか、認知症になった現実をどのように受け入れ生活されているのか、どんな気持ちなのか...NHKスペシャルでドキュメンタリー番組が放送されました。
普通と認知症の状態が行ったり来たり、時間軸があやふやになっていく中で行きつけの喫茶店に毎日通ったり、講演の仕事をこなしたり...側には介護者の娘さんが寄り添っています。時には会話が噛み合わず娘さんが混乱している状況も包み隠さず映し出されていました。
かつては、医師として患者や家族にデイケアを勧めていましたが、いざ自分が行く立場になるとレクリエーションにも進んで参加しない、表情が硬くなった先生の姿がありました。それでも後のインタビュー記事では「デイケアに行って良かった、気に入っている」と言われていたので、受け入れることが出来たのだと感じました。家族の負担軽減の目的でショートステイも利用されましたが、何もすることなく時間を持て余す先生は「早く家に戻りたい」と言われました。これは先生に限らず利用者様からもよく聞きますが、本音の言葉が出たのでしょう。

地域ケアの実現に向けて
公表されて年月が進むとソファで身体を休める時間が増え、転倒が増え、顔面絆創膏で痛々しい場面もありましたが、そこにはいつも先生の笑顔がありました。家族の負担は大きくなっていますが、先生が時々見せるニコッとした表情に皆が救われているのではないかと思いました。
先生が認知症を公表したのは「認知症になっても普通に暮らしていることを知ってもらいたかった」そして「地域で認知症の人をケアしていく地域ケアが重要だ」と感じておられるからです。そして今、それが現実に具体化されようとしています。
2019年6月に認知症対策推進を国の責務と定め、認知症の人が「社会の一員として尊重される社会の実現を図る」ことなどを明記した認知症基本法案が国会に提出されました。
生命保険業界では認知症と診断された場合の保険が出始め、認知症診断助成制度や賠償保険加入制度、徘徊高齢者の見守りネットワーク事業に取り組んでいる自治体もあり認知症への取り組みが確立されてきました。

最後に
近い将来5人に1人が認知症を発症すると予測され家族、知人、友人、周りにいる誰かがいつ認知症になってもおかしくない時代になってきています。
番組の中で、先生がかつての先輩医師に言われた言葉が紹介されていました。それは“君自身が認知症になって初めて君の研究は完成する”でした。実に意味深い言葉でした。

いずれ研修を再開できるようになった時、これを題材に改めて皆で学ぶ機会を持ちたいと思っています。