「2025年問題」を介護の現場から考える ~コロナ禍の中改めて思うこれからの介護~

「2025年問題」という言葉を聞いたことがありますか?
2025年問題とは、第二次世界大戦終了後のベビーブームによって生まれた人口比率の高い、いわゆる「団塊の世代*」が2025年までに後期高齢者(75歳以上)に達することにより、医療・介護費などの社会保障費の急増が懸念される問題のことです。
日本にはおよそ1000万人の「団塊の世代」がいると言われ、その多さは他の世代に比して突出しており、2025年問題は我が国の医療・介護政策の根幹をなす課題としてクローズアップされて久しくなりました。
今回は、この2025年問題の概要とこれからの介護職に求められることについて、改めて考えてみました。

*団塊世代:1947~1949年に生まれた世代で、現在70歳代前半の中心を構成している人たちのこと。

■高齢者の世帯数の推移

厚生労働省が発表している「今後の介護保険をとりまく状況」によると「世帯主が65歳以上の単独及び夫婦のみの世帯」は2010年には 約1,038 万世帯でしたが、2020年には約1,319万世帯に、2025年には約1,346万世帯に増加すると見られています。また、世帯数全体に占める「世帯主65歳以上の単独及び夫婦のみの世帯」の割合は2010年の20%から2020年に24.9%になり、2025年で25.7%に達すると見込まれています。ちなみに2025年での65歳以上の人口の割合は30%と予測されています。

■2025年問題が社会に及ぼす影響

(1)少子化と人口減少

日本は、1997年に高齢者よりも子どもの数が少なくなり、名実ともに「少子社会」になりました。
これは日本の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子の数:以下、出生率)の値が、人口の長期安定的な維持に必要とされる目安である2.08人を1974年以来下回り続けている結果です。
出生率は1970年に2.13人だったものが2010年には1.39人、2015年には1.45人と低位のまま推移し続けています。
政府としても、エンゼルプラン、緊急保育対策等5か年計画、少子化対策推進基本方針、新エンゼルプランなど、様々な施策を打ち出してきましたが、その後の出生率も2005年に底を記録して以降、現在に至るまでわずかな上昇に留まっています。
日本の諸社会情勢から考えてこのペースでは、少子化問題を解決できるほどの回復は見込めないと考えられます。
全体で見ても、総務省の「国勢調査」及び「人口推計」では、2010年の日本の人口は1億2,806万人であり、内19歳までの人口は2,287万人で全体の18%、2025年の予想は1億2,066万人で内19歳までの人口は1,849万人で全体の15%となっています。
このまま日本の人口は減少し続けて、2060年には8,674万人となり内19歳までの人口は1,104万人と全体の13%まで減少するとされています。

(2)特に地方での医師の不足

課題は人口減少だけではありません。医師の偏在も課題の一つです。
地方では、医療を受けたくても設備が無かったり、医師がいなかったり、救急患者が病院をたらい回しにされる事例も数多く出ています。
2008年から2014年にかけて、我が国全体の人口10万人対医療施設従事医師数は10%増加しています(212.32人→233.56人)が、人口等で地域を分類すると、その増減に大きな違いが生じていることがわかります。
特に過疎地域の医療圏においては、その内の24%が減少しており、全国平均以上に増加しているのは21%です。
また、医師の人手不足による過酷な労働状況が表面化し、新たな問題となっています。2025年問題では、このように医療の現場での医師不足や財政上の問題が深刻化する中、かたや医療が不可欠となる高齢者が増加し続けるという困難な状況が進行しているのです。

(3)医療費による財政の圧迫

更に医療保険給付の側面から今後の見通しと課題を見てみると、厚生労働省の資料によると2025年の医療保険給付は総額54兆円と、現在よりおよそ12兆円も増える見通しです。
この額は上記に示したように著しい若年層の人口減少による税収不足を考慮すると、現状のままでは賄いきれない金額となります。

(4)介護職を取り巻く現状

病院をはじめとする医療現場の医師の人手不足の話は前述の通りですが、同時に看護師や介護士の不足も喫緊の課題となっています。
特に現在、心配されているのが「認知症患者」の急増という問題です。
2025年には、認知症高齢者の人数はおよそ700万人に達すると予想されています。
実際に65歳以上の高齢者のうち、認知症で自宅以外での日常生活に支障をきたす恐れがあるとされる日常生活自立度Ⅱ以上の高齢者は、2010年で280万人だったのに対し、2025年には470万人へと急増するとも予想されています。
この認知症患者の急増は、病気の患者とは異なる意味で、医療、介護、地域や家族を圧迫するものになります。

■2025年問題から介護職に求められること

2025年問題を背景に、介護職の重要性と期待が高まる一方で 、「忙しい」「給料が安い」「体力が必要」など、大変さがクローズアップされている現状も影響し、人材不足が常態化してきました。これまで国は介護報酬に処遇改善加算の創設、働きやすい職場環境の実現に向けた人員配置や施設基準の見直しなど、徐々にではありますが介護職の待遇改善を図っています。またこれからの介護職には限られたマンパワー等の中で、高齢者のより良いケア体制を構築するために、医師、看護師等の他職種とも連携しつつ、「地域全体で高齢者を支える」という姿勢がこれまで以上に求められてくるでしょう。

■新型コロナウイルスの蔓延で課題浮き彫り

この度の新型コロナウイルス感染症への対応においても、患者の救命に追われ崩壊の危機に瀕している医療現場だけでなく、介護現場でも人材不足がひっ迫して困難な状況が発生しました。子どもの休校で出勤できない職員が増えたり、予定していた外国人スタッフの来日が中止になるなどし、利用者に十分なケアを提供できない現場の苦悩が各メディアで紹介されたりしています。高齢化が加速した我が国の社会構造の課題が今回のコロナ危機で浮き彫りになったかたちです。介護職の有効求人倍率は今年1月時点で3.95倍と、全職種平均の1.49倍を大きく上回ります。介護施設では入居者3人に対し1人の職員を付けることが法律で義務付けられていますが、厚生労働省は2月、コロナ危機の影響で職員の不足が見込まれることから、「一時的に人員基準を満たすことができなくなる場合、柔軟な取扱いが可能」との通達を出しました。

■山積する課題の中で

このような問題を抱えながら、2025年を、そしてその後を、どう乗り越えていくか、そのために介護職として何をしなければならないのか、何ができるのか、について私たち自身も、一人一人が真剣に考えてみる必要があることを再認識しています。コロナ危機は、私たちにとって、改めて2025年問題の大きさを実感し、危機感を持って対峙することを迫られる警鐘となりました。今後も国の政策等により介護職をめぐる環境は刻一刻と変わっていくことでしょう。しかし、人と人との触れあいの中で、思いやりをもって利用者さんに接するという前提は変わることはありません。私たちは一人一人の「あなたらしさ」を守るため「愛のある介護」をこれからも提供し続けていく中で、自分たちの在り方についてもより深く考えていきたいと思います。