枝吉ヘルパーステーションホープの安藤です。今回の研修は前回に引き続き、介護におけるハラスメントについて考えます。前回は高齢者(以下、利用者)から介護職へのハラスメントについて学びましたが、それに加えて、今回は介護職や家族から利用者への虐待・ハラスメントにも注目してみました。
虐待(暴力)・ハラスメントは介護職等が「被害者」となる場合と、逆に介護職や家族が(利用者への)「加害者」となる場合があります。今回は兵庫県他による調査結果などをもとに、介護職が「被害者」の場合と「加害者」の場合を併せて紹介します。
■利用者から介護職へのハラスメント
まず、利用者やその家族から介護職へのハラスメントについては以下のようなものがあります。
- 身体的暴力
- 身体的な力を使って危害を及ぼす行為
(例) 物を投げる つねる 叩く 唾を吐く - 精神的暴力
- 個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、貶めたりする行為
(例) 大声を出す 怒鳴る 威圧的 理不尽なサービス要求 - セクシャルハラスメント
- 意に添わない性的誘いかけ、好意的な態度の要求、性的な嫌がらせ
(例) 必要が無いのに手や腕、体に触れる
■介護職や家族から利用者への虐待・ハラスメント
兵庫県内の介護事業別の介護職による利用者虐待の状況は以下の通りです。
令和3年度 介護職による虐待状況報告 (兵庫県)市町村への相談・通報件数157件 虐待事実を認めた事例28件
・虐待は在宅介護より施設系介護による虐待が目立っています。
・相談・通報・報告のない場合も多く虐待は増えていると考えられます。
令和3年度 家族による虐待状況報告※多い順番 (兵庫県他)市町村への相談・通報
- 相談・通報件数
- 1.介護支援専門員・介護保険事業所 2.近隣住民・知人 3.民生委員 4.被虐待高齢者 5.家族・親族 6.虐待者自身 7.その他
- 虐待者の被虐待高齢者との続柄
- 1.配偶者 2.子(特に息子) 3.息子の配偶者 4.孫 5.娘の配偶者 6.その他
- 被虐待高齢者の要介護度状態区分
- 1.「要介護4」 2.「要介護5」 3.「要介護3」 4.「要介護2」 5.「要介護1」
- 資料により多少のばらつきが有りますが介護度が高いほど虐待を受けるケースが多いです。
- 性別では「女性76.5%」「男性23.4%」で女性が約8割を占めています。
- 被虐待高齢者の年齢(他県の統計)
- 1.80歳~84歳 2.75歳~79歳 3.85歳~89歳 4.70歳~74歳 5.90歳以上
- 兵庫県・他県ともに被虐待高齢者年齢は80歳代が一番多くみられます。
- 虐待者の被虐待高齢者との続柄では配偶者が多く次に息子となって居り全国的に共通です。
■介護職から利用者への虐待・ハラスメントに対する防止対策
介護職による虐待・ハラスメントについては、令和2年度に若干の減少が見られたものの、その後は各介護事業所における様々な虐待防止研修等の取り組みにもかかわらず、特に介護施設系で増加しています。
介護施設の場合
そもそも、なぜ虐待が発生するのでしょうか。そこには介護職の以下のような考え方が起因しているのではないかとの懸念があります。
- 利用者への虐待・ハラスメントは職員のモラルに問題がある。
- 実際の現場でこの程度の事が虐待・ハラスメントにはならない。「他の人だってやっている」
- 「利用者は認知症もあるし分からないだろう」
などです。
虐待・ハラスメントは職員のモラルというだけの単純な問題ではありません。
調査結果による主な虐待・ハラスメント発生原因は次の通りです。
- 「教育・知識・介護技術に関する問題」56.8%
- 「職員の感情コントロールの問題」26.4%
- 「虐待・ハラスメントを助長するような組織風土や職員同士の人間関係の悪さや管理体制」20.5%
- 「人員不足や人員配置に関連する多忙」12.6%
虐待の行為者(介護職)への職場での対応
行為者(介護職)への対応として、職員のストレスケア・職場の雰囲気づくり・職場の環境改善・職員と意見交換会の機会をもつ・虐待相談窓口設置・研修の実施・職員アンケート などの実施があげられます。
事案発生後の真相究明時に事業所として取り組むべき具体的対応
虐待の可能性は極めて高いが証拠となるものが無い状況で、何故、虐待(身体的虐待、精神的虐待が多くを占めている)が起こってしまったのか、真相を究明するために事業者の取り組むべき具体的対応、注意点は以下の通りです。
- 事実確認:発生状況を確認する時は暴力・ハラスメントの行為者を責めるのでなく中立な立場で接する。
- 疾患等に起因すると考えられる場合は医師に相談する。
- 担当職員の変更など具体的な解決策を話し合う。
- 行為者(介護職)に対し具体的な解決手段の実施を図ったが、再発した場合は法的な措置をとることについて、口頭・書面で警告することも検討する。
在宅介護の場合
一方、在宅介護(訪問介護)においては、虐待を発見しにくい一面があります。また、明らかに虐待を受けていると判断できる事案以外は通報等も困難な場合があります。事業者には労働者の健康や安全確保の観点から以下の基本的な考え方に基づく対応が求められます。
暴力・ハラスメント対策で事業者が取るべき基本的な考え方
- 事業者は、労働安全衛生法上、「労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」
- 労働契約法上「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務がある。
- 事業者は、暴力やハラスメントにより職員の離職やうつ等の精神疾患を防ぐため職員が「自分のケアが未熟だから」「これくらい大丈夫、普通」「利用者さんとの信頼関係を壊したくない」と我慢を抱え込むことをせず、上司・先輩職員・同僚などに相談できる雰囲気づくりやシステム構築が重要である。
- 事業者は、情報収集・情報共有・職員の心のケア・組織全体としての対応を行う事を検討する。
- 暴力・ハラスメントのリスク要因を再度アセスメントすることにより再発を防止する。
■介護現場における虐待・ハラスメントの具体的事例紹介
調査では利用者がその配偶者や息子から受ける虐待が多く見受けられましたが、家庭内の事でありヘルパーが直接家族に訴えることは出来ませんので、介護支援専門員や地域包括センタ-或いは担当者会議での相談、報告によって関係者間での周知、共有が図られています。どのような理由があっても虐待は決して許される事ではありません。
しかし、事情を聴いてみると利用者自身が過去に娘に対し虐待・ハラスメントを行っていたという場合もあります。当時は虐待という認識は全くありません。私達介護職は介護現場でのほんの一部分しか知り得ることが出来ません。優し気で、弱い利用者であっても昔はそうではなかったという場合もあります。重ねて言いますが虐待は絶対にダメということが前提ですが虐待にも理由があります。虐待が起こった根本的な部分(理由)を解決することが重要です。
利用者に対する身体的虐待・心理的虐待・性的虐待・経済的虐待・介護放棄
- 転倒しない程度で体を押し倒すような仕草をした
- 年金の取りあげで食べ物も満足に与えない(自身の生活費として親の年金を使いこむ)
- 汚染室内放置
- 必要なサービスを入れず褥瘡の悪化放置
- 食事を作らない
- 怒鳴る 罵倒する
介護職に対するハラスメント
介護職が経験したハラスメントには次のようなものがありました。
- 頭から足の先までジロジロ舐め回すように見て夫婦生活の事をきかれた
- 入浴介助時に自身の陰部を異常に丁寧に洗う仕草を見せつけヘルパーに洗うように依頼した
- ポッチャリや不細工、年寄りのヘルパーは要らない交代してほしいと依頼した
- 自分自身で出来る動作であっても全てヘルパーに依頼する(家政婦のように扱う)
- 介護保険制度が始まった頃は特に酷く家族からのハラスメントも多かったが、そのころは未だ社会的にもハラスメントや介護保険制度の内容自体の認識が薄く高齢者(利用者)や家族の依頼は実施しなければならない風潮があった。
- 一人息子の嫁候補と勝手に利用者が思い込み、根掘り葉掘り個人情報を聞き出そうとした
■まとめ
利用者や家族から介護職が受ける暴言・暴力・ハラスメント行為への対策については、訪問介護事業所におけるハラスメント対策の取り組みの強化や、相談しやすい環境整備を進める必要がある。一方で、介護職や家族による利用者への「高齢者虐待」「ハラスメント」は減少することなく増加しています。弱者である高齢者にとって、虐待は許される行為ではありません。どのような理由があっても虐待に至るまでに防止することが重要です。
今回は問題が起きるまでに行うべき対策と、起こってしまった場合に行うべき対策を学ぶ研修となりました。今後、組織的な対策と日々の業務改善を通じて、「お互いにとって良い介護」を目指していきたいと思います。