101歳Kさんが自分で決めた人生

Kさんは101歳。
ご主人に先立たれてから今のご自宅で一人暮らしを続けています。
市内に息子さん家族がおられますが、色々な事情があったようで今は絶縁状態。
息子さんのお嫁さんが毎日朝と夜に様子を見に来られています。
現在要介護5の寝たきり状態。
ベッドの上で寝返りをうつのも介助を要します。
介護保険で1日3回ヘルパーが訪問し、食事介助等身の回りの援助を行っています。
この他にも週2回訪問入浴サービスを受けて入浴、訪問看護は1~2週に1回で、主に排便の援助を行っています。
また通院はできませんので2週ごとに訪問診療を受けています。
一人暮らしのKさんの体調が悪くなる度に、ご家族や訪問スタッフはこれまで何度も施設入所をすすめました。
しかしご本人は拒否。
でも一人が好きだというのではないようで、いつも「次はいつ来るの」「何時になったら来るの」「もうちょっとおって」と言われます。
Kさんの楽しみは食べることです。
ヘルパーさんが準備したものを、いつもしっかりと食べています。
100歳を超えて生きる人は口からしっかり食べる人なのだと感じます。

そんなKさんがある日、入浴後に水分を勢いよく飲んだことより誤嚥をおこしてしまいました。
ケアマネさんから連絡があり訪問したところ、呼吸困難のため苦しそうな表情をされていました。
指で測定する血中酸素濃度も下がっています。
すぐに病院に行きましょうと話しましたが、Kさんは「病院は絶対にいや!」としっかり返答されました。
どうしてか尋ねると「もう年やから死んでもええ。長生きせんでええ。点滴も痛いし、病院には行きたくない」とのこと。
主治医の病院にKさんの状態を伝え、いつでも受け入れてもらえるよう連絡するとともに、お嫁さんにはKさんが病院に行きたいと言えばいつでも連絡してもらうよう話しました。


血中酸素濃度はなかなか上昇せず呼吸困難が続いていたため、翌日に在宅酸素が設置され酸素吸入が始まりました。
食事や水分を摂ることが困難な状況ですが、点滴は嫌いなKさんです。
Kさんに尋ねると、以前入院した際は何度も針を刺されて痛かったとのこと。
何度も刺される心配がない皮下輸液という方法を説明し、Kさんは「それやったらするわ」と言って下さいました。
在宅酸素と皮下輸液で少しずつ呼吸困難が緩和してきた3日目のこと、Kさんが「なにか飲ませて」と言われました。
主治医の許可をもらい少しずつ飲んでもらうと「おいしい、もっとちょうだい」と言われます。
まだ誤嚥の危険性があるため少しずつしか飲めないことを説明し、かわりに口腔ケアスポンジで口の中を湿らせることで納得していただきました。


5日目、ゼリーから少しずつ経口摂取が開始となりましたが、呼吸状態は一進一退の状態。
そんな時、突然救急隊から連絡がありました。
Kさん自ら緊急システムのボタンを押して通報したとのこと。
救急隊がKさんを病院へ搬送しようとしましたが、Kさんが拒否されるため状況を聞きたいとのことでした。
すぐにKさんの自宅に駆けつけこれまでの経過を救急隊にお話ししました。
ボタンを押した理由を尋ねると「苦しかったから誰かに来てもらおうと思って押した。でも病院に連れて行かれるのはいや」とのこと。
結局主治医が往診してもらうということで救急隊には帰っていただきました。
主治医が「こんな状態やったら入院した方がいいんとちゃうか」と話したところ、Kさんは「入院したらスーッと逝けるん?」と聞き返したそうです。
主治医が「それは分からん」と言うと「それやったら行かへん」と。
結局Kさんの望み通り自宅療養を続けることとなりました。
9日目、Kさんの呼吸状態が悪化。
Kさん自ら「入院する」と言われたため、救急搬送での入院となりました。

家族も主治医ももっと早くからの入所・入院を望んでいました。
しかし“家で過ごす”こと“入院する”こと、長い人生、いつもKさんは自分の意思を貫いてこられました。
私たちが思い通りにKさんの意思を変えることはできません。
私たちにできることは、Kさんの意思を、Kさんが決めた人生を支えることだと感じます。

今も病院で闘病中のKさん。
またあの明るい笑顔を見せて下さることを心より願っています。