皆さんは「フレイル」という言葉を聞いたことがありますか?
「フレイル」とは、年齢と共に心身の活動が低下し、生活機能が障害され心身の脆弱(ぜいじゃく)性が出現した状態のことを言います。これは、要介護状態となる最も大きな要因となっています。
しかし、このフレイルは適切な介入や支援をすることで健康な状態に戻すこともできる為、早めに気付いて予防することが重要です。
「フレイル」は、身体的な衰えのほか、心や社会性の衰えも含まれます。特に、身体的フレイルの一つである筋肉の衰えは、フレイルを加速させる最大の要因と考えられています。
足の筋肉量が低下すると、転倒しやすくなり、次第に外出を控えるようになり、社会との接点が少なくなったり、鬱や認知機能の低下につながるという負の連鎖が生まれます。
又、飲み込むための筋力が低下し、口の中に食べ物を取り込み、飲み込む機能が低下することは摂食嚥下障害と密接な関係にあり、誤嚥性肺炎の引き金として危惧されています。
摂食嚥下障害を予防し、少しでも早く発見し又、適切な対策を講じることで、できるだけ長く自分の口で食事を摂り、全身の健康が維持できるようになります。
実は私もこれまでフレイルという言葉になじみがなく、私が担当し始めた利用者さんで摂食・嚥下障害による誤嚥性肺炎を起こすリスクが高い方へ関わりをしていく中で、嚥下食・口腔ケアの大切さ、口や舌の言葉の体操などに興味を持ち、口腔ケアや介護食の研修に参加をしました。その中で嚥下食を実際に調理をしたりしてきましたが、ブレンダーやミキサーを使うものが多く、高齢のご家族が毎日使いこなすのは難しく、長続きしないのではないかと思いました。
そこで、もっと簡単にできるものがないかと調べてみましたので、それを紹介したいと思います。
~介護食ってどんな食事?普通の食事と何が違うの?~
*きざみ食 (食べ物を小さく刻んで食べやすくした食事)
→細かく刻んでいる為、食物を口の中でまとめにくく、時には誤嚥につながる為、水溶き片栗などでトロミを付けてまとまりやすくする。
【対象】
・麻痺などでお箸が使えず、スプーンで食べる人
・飲み込む力はあるが、噛む力が弱くなった人
【非対象】
・唾液の少ない人
・入れ歯を使っている人
*軟菜食・ソフト食 (よく煮込んだり、茹でたりすることで軟らかくした食事)
・舌でつぶせる硬さ
・一度ミキサーにかけて更に固めることもある
→煮込んだり、ミキサーでペースト状にして再固形する為、時間がかかる
【対象】
・歯が数本しかない人
・義歯が無い又は、不適合な人
・窒息や誤嚥性肺炎の既往のある人
・飲み込む力が低下している人
*ミキサー食 (ミキサーにかけて液体状にした食事)
・上顎と舌で押しつぶせる軟らかさ
・誤嚥を防ぐため、トロミ剤でトロミを付ける
→食材を全てミキサーにかけてしまう為、見た目が美味しそうではない
食欲低下することがある為、ミキサーにかける前の食事を見せたり、メニューを伝えるなどの工夫が必要
【対象】
・歯が無く、噛むことがほぼできず、飲み込みも難しい人
*嚥下食・ミキサーペースト食 (軟らかく調理したものをミキサー等でペースト状もしくはゼリー状にした食事
【対象】
・飲み込む機能の低下した人
*流動食 (液体状のおかずや重湯)
・上顎と舌で押しつぶせる軟らかさ
【対象】
・術後や高熱で胃腸の働きが弱っている人
【非対象】
・低栄養の人
かむ力、のみこむ力が低下した高齢者でも安心の美味しいレシピ!
~料理が面倒or苦手な人でも簡単に作れます~
甘くてふわっふわ!噛まなくてOKのふんわりフレンチトースト
材料(2人分)
・食パン 2枚
・牛乳 100ml
・卵 1個
・砂糖 大1
・バター 小1
・粉糖 小2
①バットに砂糖、卵を入れてよくかき混ぜ、牛乳を入れて泡立て器でさらに混ぜる。
②食パンを半分に切り、①で作った液に片面90秒ひっくり返してさらに90秒。
③フライパンにバターを入れ、半分ほど溶けたら②のパンを入れ各面約90秒焼く。
④皿に盛り、好みで粉糖をふる。
【調理&実食を終えて~みどり訪看スタッフから~】
・パンの耳を切り落としても良いかも
・食パンを半分ではなく、1/4やもっと小さく切ったほうが食べやすいかも
<とってもクリーミィ!ミルクたっぷりかぼちゃスープ>
材料(4人分)
・かぼちゃ 1/4ヶ
・小麦粉 小2
・牛乳 400cc
★ バター 10g
★ コンソメ 1~1/2ヶ
★ 塩コショウ 少々
①かぼちゃは種を取り、皮を切り落とす。皿にかぼちゃを移し、水を振りかけてラップしてレンジで4~5分。
②かぼちゃがすぐ潰れるくらいに軟らかくなれば潰す。
③かぼちゃがなめらかになったら小麦粉を入れ、粉っぽさがなくなるまで混ぜる。
④牛乳100ccを入れ、かぼちゃと馴染ませたら残りの牛乳を入れる。
⑤弱~中火にかけて沸騰させないように温め、スープが温まったら★を入れる。
【調理&実食を終えて~みどり訪看スタッフから~】
・②③をしっかりしないと滑らかにはならない
・食感を味わいたい人は少し粗目でも良いかも
<豆腐を水切りして混ぜるだけ!簡単なのに美味しいお惣菜白和え>
材料
・市販の惣菜(きんぴら、ひじき、ほうれん草のお浸し、かぼちゃなど)
・絹ごし豆腐
① 豆腐を水切りし、泡立て器などですりつぶす。
② 好みの惣菜を和える。
【調理&実食を終えて~みどり訪看スタッフから~】
・惣菜は細かく刻むと飲み込みやすい
<季節の果物と豆腐の素敵な出会い!フルーツ白和えスイーツ>
材料
・フルーツ(バナナ・みかん缶・リンゴ・キウィなど)
・絹ごし豆腐 1/2丁
・生クリーム(なければヨーグルト) 50ml
・はちみつ(なければ砂糖) 大1
①豆腐を水切りし、泡立て器などでつぶす。
②生クリームとはちみつを混ぜ合わす。
③小さく刻んだフルーツを和える。
【調理&実食を終えて~みどり訪看スタッフから~】
・熟したバナナやモモやミカン缶は舌でつぶしやすく食べやすい
・リンゴはすりおろして混ぜるのもグー
<まるで天ぷら!天かすと麺つゆで作る魔法のレシピ>
材料
・野菜(かぼちゃ・なす・にんじんなど)
・天かす
・めんつゆ(市販品)
・大根おろし(好みで)
・トロミ剤(嚥下能力に応じて)
①小さく切った野菜を電子レンジで軟らかくなるまで加熱する。
②鍋に①とめんつゆを入れ、好みの軟らかさまで煮る。
③天かすを入れお好みで大根おろしをトッピング。
④嚥下能力に応じてトロミを付ける。
【調理&実食を終えて~みどり訪看スタッフから~】
・スプーンでつぶせるくらい軟らかく煮るのがコツ
~訪問看護師から食べる力に合わせた6つのアドバイス~
アドバイス1
<噛む力が弱い人の為に>
繊維や筋の少ない食品を食べやすい大きさにして、軟らかく加熱しましょう。噛みにくいものには、細かく切り目を入れます。
ムセやすくなれば、“刻めばよい”と思われがちですが、何でも刻めばよいという訳ではありません。
アドバイス2
<噛んだものをまとめ、喉に送り込む力が弱い人の為に>
食材を軟らかく加熱すると共に、油脂を混ぜたり、片栗粉やトロミ剤でなめらかさを補いましょう。
あんかけ・卵とじ・シチューやクリーム煮などはおススメです。
アドバイス3
<飲み込む力が弱く、水分でムセる人の為に>
液体にトロミを付けるのがおススメです。例えば、中華風かき玉スープやあんかけ、片栗粉やくず粉、ホワイトソースやシチュー、市販のトロミ剤を用いる方法があります。最近は、ゼリー状の飲料も売られています。水分やエネルギー補給に上手に利用しましょう。
アドバイス4
<サラサラの液体はなぜダメなの?>
「食事の時にムセやすくなった」と話すと、トロミを付けるようにアドバイスを受けることは多いと思います。それは、サラサラの液体は素早く喉に落ちてしまうからです。嚥下反射の遅い人は、食道ではなく気管に入ってしまう(誤嚥)のです。
トロミの付いた液体は、喉に落ちるまでの速度が緩やかなので、嚥下反射が遅い人でも比較的安全に飲み込むことができるのです。
どのくらいのトロミが適しているかは、その方の飲み込む能力によって異なる為、専門家に相談してトロミの強さを調整して下さい。
トロミを付けるポイントとしては、
① コップやスプーンはいつも同じものを使う
② トロミ調整剤は毎回すり切りで量る
※飲み物をトロミ剤でジャムくらいの硬さにすると、べたつきが強い為に口や喉に貼りつきやすく、かえって飲み込みにくくなり、場合により窒息につながる危険があるので、トロミが強すぎないよう注意が必要です。
アドバイス5
<食べる時に注意したい食品>
・噛めば噛むほどバラバラになる
こんにゃく・貝類・イカ・タコ・きのこ類・かまぼこ・凍り豆腐・繊維の硬い野菜(セロリ・ごぼう・たけのこ・もやしなど)
・ムセたり喉にひっかかりやすいもの
酢の物・酸っぱい物・ビスケット・パン・豆・ナッツ類・生野菜・刻んだ食事・ふりかけなど
・口の中や喉に貼りつきやすいもの
わかめ・のり・もち・ウエハース・もなかなど
アドバイス6
<トロミがつきにくい時の対処法は?>
① 飲み物の種類や温度によって、トロミが付くのに時間がかかることがあります。その為、30秒くらいは混ぜましょう。
同じ飲み物でも、冷たい方がトロミは付きにくいです。
② トロミが付きにくい飲み物には、ニ度混ぜをしてみて下さい。
・トロミ剤を入れ、30秒以上混ぜる→2~15分置く→再び30~60秒混ぜる
これをするとしっかりとトロミが付き、トロミの強さも安定します。
~いつまでも自分の口から美味しく食事をしてフレイル予防するために~
フレイル予防は期間限定ではなく、毎日続けていかなければなりません。特に、食事は毎日で、しかも複数回で、在宅生活を支える重要な役割を担っている分、家族(特に高齢)にとってはかなりの負担にもなります。
今回は、食事の中でもミキサーやブレンダ―などを使わずに作れる簡単なレシピや、基本的なことを取り上げてみました。
ですが、“食べる”ことは、調理だけではありません。
栄養面の配慮や工夫、口腔内の清潔、口腔内機能の維持、口や嚥下の体操、食べる時の姿勢…etc。
たくさんのサポートが必要となります。それぞれ、専門のサポートが受けられることが望ましいですが、実際は介護度や他の介護サービス、経済面などから難しいことが多いです。
私の担当した利用者さんは、ST(言語聴覚士)による嚥下の評価・指導の元、週1回ヘルパーによる調理サービスというサポートを受けながら、高齢の夫の介護負担軽減に努めていました。
しかし、その後、夫の体調不良で入退院を繰り返した為、サポートは中断となり、今回のレシピは実際には作られることはありませんでした。
現在は、夫の体調を考慮してデイサービスを増やしたことで、STやヘルパーによる調理サービスはなくなりました。
食事は市販のレトルト食を取り入れながら、夫のおかずを潰したりして1品を増やす工夫をされています。
その方の事情に合わせて取り入れられるものを相談しながら、上手に美味しく食べて、在宅での生活を継続できるように私も訪問看護師としてできることをしていきたいと思います。