その人らしい生活を送るために~「暮らし」に合わせた福祉用具の活用術~

訪問リハビリテーションでは、その人の暮らしや生活環境に合わせたリハビリテーションを提供しています。身体機能の改善だけを目標にするのではなく、生きがいや思いを支援し、生活の質(QOL)の向上を目指しています。

そして、これらを実現させるために生活環境の確認、日常生活動作を確認し、必要に応じて福祉用具の選定や評価、住宅改修の提案をさせていただいています。
住環境の調整や住宅改修は、その人らしい自立した生活を獲得したり、継続するための重要なリハビリテーションアプローチの一つです。
今回は、利用者様のエピソードを交えながら環境整備についてのお話しをさせていただきます。

【Aさん:80代女性、夫と二人暮らし】
回転性のめまいと下肢筋力が低下しており、「転んだら怖い」と自宅内は四つ這いで移動されています

Aさんが使用している超低床電動ベッドです。高さが11cmまで下がるので、布団とほぼ変わりなく使用でき、ベッドから四つ這いで下りることもできます。
就寝時の転落の心配もなく、ご家族の方も安心です。介護の際や車イスへの移乗時は高さを上げることもできるので、一般の介護ベッドと同じように使用できます。

居室以外は板間の為、「四つ這いで痛いところはないですか?」と声をかけると、毎回「どこも痛くないねん」と返ってきます。Aさんが四つ這いで移動し始めると素早くマット、座布団を敷き、道を作ってくれるご主人。奥様思いのご主人のおかげで、膝も痛くならずに過ごされています。

四つ這いでトイレまで移動し、床から立ち上がりやすいようにトイレの手すりは低めの位置に設置されています。

【Bさん:70代男性、妻と二人暮らし】
布団の生活に慣れている為、布団で眠りたいとの思いがあり、寝具は布団を使用されています

Bさんは、数か月の入院生活後も以前のように布団を使用していましたが、体調が悪い日には一人で起き上がることができず、奥様に介助してもらうこともありました。

介護ベッドを使用したほうが起き上がりや起立が楽になり、奥さまの介護負担も軽減できると思い、デモを試してもらいました。しかし、Bさんからはどうしても身体に馴染まないし、人が来た時に部屋が狭く窮屈に感じるとの話を聞き、相談し布団に戻すことにしました。

その際に、レンタルで導入したのが、こちらの布団用手すりです。置き型の為、どこでも置ける優れものです。天然木で部屋にも馴染みやすいデザインとなっており、小物を置ける所もBさんは気に入られています。
この手すりは、まず手の平で体重を支えて、次に手すりで立ち上がる2段階式となっており、楽に布団から立ち上がることができます。

Bさんは、時々来訪される弟さんと囲碁を楽しまれています。ベッドは確かに起きやすいけど布団の方が今の生活に合っていると話してくださいました。

【Cさん:80代女性、娘さん家族と同居】
私物のパイプベッドを使用されています

Cさんは、訪問当初からベッドからの起立時にふらつきが見られ、転倒のリスクがありました。使用しているベッドの高さが30cmと低めだったことから、介護ベッドを提案しましたが、使い慣れているベッドを使用したいと話されました。そこで、こちらの“置き型手すり”をレンタルで導入することにしました。これは、膝、腰に負担をかけない立ち上がり動作をサポートする手すりです。

ベッドや布団からの立ち上がり動作は、自立への第一歩です。居室用の手すりは、立ち上がり動作を助け、自力で歩いて移動するきっかけを作ることができます。Cさんも置き型手すり導入後はスムーズに起立し、トイレまで一人で歩かれています。

【Dさん:60代男性、独居】
訪問当初は、マンションの狭い廊下が通れる介助用車イスをレンタルし、足漕ぎで自走されていました

Dさんとの出会いは、訪問看護師から屋外を車イス自走できるか評価してほしいとの依頼から始まりました。Dさんには、一人で外出したいとの希望がありましたが、長距離の車いすの自走は息切れが見られました。その為、身体に負担が大きいと考え、電動車イスのデモを試してみることにしました。

PT、看護師、福祉用具業者の方、車イス業者の方で付き添い、お店までの道のりを確認しました。電動車イスの操作方法に問題はなかったのですが、周辺の道路環境が悪く段差への乗り越えができない、お店の急なスロープが上がれない等の問題がありました。私たちは屋外も介助者がいれば安全に使用できるが、一人で使用することは難しいことをDさんに伝えました。

しかし、すぐにでも電動車イスでの外出許可が出ると思っていたDさんは納得いかず、「運転免許が必要なら取りに行く。」と話されました。マンション内であれば電動車イスを使用できることを伝えましたが、「それならもういい。電動車イスは持ち帰ってくれ。」と立腹されてしまいました。これで終わりにしてしまったら、Dさんの思いを叶えることができず、私たちはどうしたらいいのかと悩んでいると、車イス業者の方が“〇〇〇〇〇”ならいけるかもしれないと提案してくださいました。電動車イスと電動カートの両方の機能を兼ね備えた車イスであるとのこと。

翌週、私たちは期待に胸躍らせDさんの試乗に付き添いました。こちらの写真が試乗した“電動車イス”です。見た目の感想は、スタイリッシュなデザインでかっこいい!!

実際にDさんの運転は、段差や悪路でも滑らかで安定した走行が可能でした。また、思ったよりもコンパクトで狭い店内でも小回りが利き、まさに求めていた電動車イスでした。レンタル導入後は、一人で外出できるようになったDさん。以前から友人が集まる行きつけの喫茶店に行けるようになったことをとても喜ばれていました。

病気の進行とともに立位をとることができなくなると、玄関に停めていた電動車イスを室内まで乗り入れ、室内でも使用されていました。「外出できなくなるまでは入院せずに自宅で過ごしたい」と話されていたDさん。相棒のような電動車イスに出会い、その思いをより長く実現できたのではないかと思います。

いつも人懐っこい笑顔で迎え入れてくれたDさん。何でも身をもって体験される方でした。
よくDさんが言われていた、「とりあえずやってみようか!!」という言葉が、関わっていたスタッフの更なる向上心につながり、かけがえのない言葉として今も心に残っています。日々の業務で悩んだ時、「とりあえずやってみようか‼」と声に出し、Dさんの笑顔を思い出しています。

~さいごに~

福祉用具は、時代と共に進化しており、新たな素材を使った高機能の物や、デザインが洗練されている物も増えています。しかし、頼りすぎることで身体機能の低下を招くこともあります。その為、安全面にばかり考慮した環境調整にならないよう、利用者様の力を発揮しやすい環境整備が望ましいと考えています。

私たちの身体は変化します。その為、利用者様の身体状況によって必要な福祉用具の機種が異なってきます。その時々で、適切な福祉用具を選ぶことができるレンタルはとても便利です。
優れた機能を持つ福祉用具は価格も高価なものが多く、購入するのは大きな負担となります。負担の少ないレンタルでご使用されることをお勧めしています。

訪問リハビリは、実際の生活場面で練習することで動作能力を獲得しやすい、より生活しやすい環境設定の提案ができる、家族への支援ができる等のメリットがあります。
提供する側の押し付けではなく、利用者様、家族様の意見、要望を確認し価値感を大切にしながら住み慣れた自宅や地域でその方らしい生活が送れるよう支援していきたいと思います。