いきいき素敵な「その人らしく」〜日々の暮らしの『楽しみ』を生きるパワーにかえて~

突然ですが、皆さんにとって日々の『楽しみ』とはどのようなことでしょうか?スポーツ、読書、料理、ペットとの暮らし、野菜や花を育てること…その他様々なことがあると思います。私は、2人の娘の成長や家族で一緒に出掛けること、猫好きの次女と猫カフェに行くこと、音楽を聴いたり見に行くことが日々の楽しみです。

些細なことでも日々の『楽しみ』があることは、生きていくパワーになりますね。訪問看護で関わっている利用者様も、人それぞれの楽しみを持って生活されています。今回は3名の利用者様の『楽しみ』をご紹介させて頂きます。

【Aさん:女性95歳/慢性心不全、高血圧、骨粗鬆症/要支援2】

ご主人は他界され独居ですが、長男様・長女様が交替で来訪し、内服管理・食事の準備、その他身の周りのお世話全般を行っておられます。介護保険でのサービスは週1回の訪問看護のみで、ご家族様が入浴介助や屋外散歩の付き添いも行って下さっています。

長男様は数年前にご病気を患い、定期的に治療を受けておられますが、治療を受けながらAさんの介護も続けておられます。長女様は時々着物の着付けの仕事に行きながら、Aさんの介護を行っておられます。以前保育士の仕事をされていたという経験があり、Aさんと毎月季節に合わせたテーマで折り紙を使った飾りを作成されており、1年半継続されています。

娘様と2人で折り紙の色や柄など1つ1つ相談しながら、時間をかけて丁寧に作成されています。「90歳超えてから折り紙するなんて思ってなかった。まだまだ頑張らないとねー。」と、前向きな言葉が聞かれた時はとても感動しました。毎月新しい作品が出来る度に、私にも喜びを分けて頂くことができ、感謝の気持ちでいっぱいです。

訪問した際に長男様にお会いすると、笑顔で作品のことを話して下さり、ご家族様の大切な時間を過ごされていると感じます。Aさんも娘様も無理のない範囲で、これからも楽しみながら折り紙を続けて頂けたらいいなと思っています。

【Bさん:女性93歳/糖尿病、糖尿病性末梢神経障害、左眼視力障害/要介護1 】

ご主人は他界され独居ですが、甥御様と姪御様が来訪され、内服セットや体調確認を行っておられます。年齢相応ではありますが物忘れがあり、時々鍋を焦がしてしまうことなどがあるため、身の周りの安全確認や環境調整も行って下さっています。

介護保険でのサービスは、週2回のヘルパーサービス(入浴介助)と週1回の訪問看護(状態確認・内服確認)です。デイサービスはご本人の意志により利用されていません。…というのも、Bさんの日々の楽しみ(日課)は自宅周辺の草を引くこと。自宅周辺は親類宅に囲まれているため、自宅以外の庭の草引きも自主的にせっせとされています。

訪問に伺った際は、Bさんがどこで草引きをされているか捜索するところから始まることも多いです。とても小柄なBさんの捜索は難航することもあります。ある日の訪問ではこんなところ(庭の植え込みの中)にいらっしゃいました。

またある時の訪問では背中にたくさんひっつき虫をつけていたり…
草引きをしているBさんを見つけてそばに近づいても、草引きに集中しすぎてしばらく気付かれないこともあります。

デイサービスは利用されていませんが、日中時間が許す限り草引きを満喫されています。天候が悪い時以外、ほぼ毎日草引きをされているので良い運動になっており、90歳超えても股関節の柔軟性を維持されています。

真夏でも屋外で草引きをされているので、熱中症が心配ですが、姪御様が購入して下さった帽子をかぶり、できるだけ陰を選びながら作業をされています。いつも口ぐせのように「引いても引いてもなんぼでも草が生えてくる。」「誰にも頼まれてへんけど、見たら引かなしゃーないねん。」と笑顔で話すBさん。これからも体調に気を付けながら、大好きな草引きを続けて頂けたらいいなと思います。

【Cさん:女性63歳/胃癌末期、骨転移/要介護1】

51歳に胃癌と診断され手術を受けましたが、63歳に転移していることがわかり、抗癌剤治療を行っていました。抗癌剤治療を受けていても、余命1カ月と医師より説明を受けた状態で訪問看護開始となりました。

離婚され3人のお子さんも独立し、独居生活。波乱万丈な人生を生きてきたCさんは、訪問に行くと体調のことよりも、ご自身の武勇伝を弾丸トークで聞かせてくれます。昔からヘビースモーカーで訪問中もタバコを吸いながら、「私なー、余命1カ月って言われてん。タバコやめても治らんしなー。」とあっけらかんと話すCさん。

ある時は髪をベリーショートにカットしてきて、びっくりして目を丸くする私に、「あーこれなー、ダウンタウンの松っちゃんみたいにしてって言うて切ってもらってん。スッキリしたわー。意外と似合うやろー。」と大笑い。でもその通り!本当によく似合っておられました。またある時には、訪問終わったら友達とフレンチレストランに行くとド派手な服を着て出掛けるような女性でした。

訪問を開始したのは冬でしたがしばらくした頃に、「私もう夏にはいないから夏服は友達にあげて整理してるねん。」と話されていました。抗癌剤治療が続けられているおかげで夏を迎えたとき、「夏にはもういないと思とったから服ないわー。」「ごはんも普通に食べられるし、ほんまに胃癌かな?って思う時がある。先生もびっくりしてはるわ。」と笑い飛ばされていました。

Cさんのマンションのベランダからは、明石大橋や淡路島が一望できました。この景色を見ながら最期を過ごしたいと思って、ここに引っ越してきたと話して下さいました。Cさんの楽しみは明石のきれいな海を眺めながら、ベランダでタバコを吸ってコーヒーを飲むこと。また、キッチンの窓から見える海を見ながら大好きな料理をすることでした。

私って本当に癌かな?とおっしゃっていましたが、徐々に病状が進行し独居生活が困難となり、緩和ケアのある病院に入院。入院してから約1カ月半後に永眠されました。余命1カ月という説明でしたが、それから約1年半関わらせて頂くことができたのは、大好きな景色にパワーをもらって過ごされていたこともその理由の1つだと思います。訪問の際、一緒にベランダに出てきれいな景色を見ながら、Cさんとたくさんお話ししたことはきっと生涯忘れないと思います。

【さいごに】

住み慣れた場所で、家族や友人・大好きな景色や使い慣れた物などに囲まれて、楽しみ・癒されながら生活するということは、在宅医療ならではと日々感じています。訪問看護を通じ、利用者様・ご家族様から“その人らしく生きる大切さ”と“たくさんのパワー”をもらっています。

そして私自身の『看護観』『人生観』に大きな影響を与えて頂いています。当訪問看護ステーションのモットーである“暮らしに笑顔を”を念頭に、安心してその人らしく療養生活を継続して頂けるよう、これからもサポートしていきたいと思います。