食事のときに「ムセ」が増えてきたら

20160208_nutrition_01
前回の管理栄養士からの投稿(https://midori-hp.or.jp/nutrition-blog/nutrition-help/)ではお食事のご相談の具体例として飲み込みの機能が落ちてしまったが、奥様が食事を工夫してくれたおかげで自宅での生活が実現したお話をしました。
そこで今回は食事を飲み込むときの体の動きと食事の工夫についてお話したいと思います。

早速ですが、食べたものが口から喉を通り、食道、胃の流れを想像してみてください。
のどには食道の入り口のすぐ隣に呼吸をするための気管の入り口があります。
気管の入り口は喉頭といい、呼吸をしているときは開いており、物を飲み込むときは気管に流れ込まないように閉まるようになっています。
しかし、気管の入り口の蓋を閉めるタイミングがズレたり、閉まりが不十分だと食べ物が気管に入ってしまいます。
そして、気管に流れ込まないようにムセこみます。

具体的には、私は高野豆腐を食べたときにむせることがあります。
それは高野豆腐を噛んでいると煮汁が染み出してきて、思ってもいないタイミングで煮汁が喉に流れ込み、気管の入り口の蓋を閉めるタイミングがずれてしまうからです。
そして気管に入らないようにしようとしてムセこみます。

このように気管に入ってしまうことを「誤嚥(ゴエン)」といいます。
そして、気管に間違えて入ってしまったものを排出しようとする働きが「ムセ」です。
この気管の入り口の蓋をする動きは約0.5秒の瞬間的な動きです。
このような「誤嚥」が日常化して、飲み物を飲むと常に「ムセ」がある、食べ物を食べるたびに「ムセ」がある。
または誤嚥したのに「ムセ」が見られない状態は飲み込む力が落ちていることが多いです。
原因はさまざまですが、脳血管障害の後遺症やパーキンソン病、加齢に伴うものなどがあります。
気管に入りそうな食物を出せないで、気管に入ると肺炎になります。
これを「誤嚥性肺炎」といいます。

では、嚥下機能が落ちてきても口から「誤嚥」せずに食べるための工夫とは?
大切なことは食事の形態、食べるときの姿勢、リハビリ、食事を食べるための体力、意識レベルなどだと思います。
2月15日のリハビリ室の投稿ではリハビリ室から見た、お食事についてのお話をさせて頂きます。
今回の栄養科の投稿は食事の形態についてお話したいと思います。
当院の食事を例に出して説明していきます。①~④に分けています。
数字が小さいほうが飲み込む力が弱くなっています。

① 訓練用ゼリー

飲み込む力がかなり落ちている方の訓練用。
栄養素がほぼなく、少量をすくってそのまま丸呑みできる状態です。
見た目はつるんとしたゼリー状です。
栄養素が含まれていないのは、気管に入ってしまったときに菌のえさにならないようにです。
また、たんぱく質が含まれているとざらつきが出てしまうからです。

② ゼリー、プリン、ムース状

この段階は三段階に分かれています。
・①より栄養素の入った飲み込みやすいゼリーです。
 この段階では1日の必要量を口からとることはできないです。
 市販のプリンの半分程度のサイズを1日1個~3個食べます。
・次に形態はゼリー状ですが1日の栄養素をほぼまかなえる量になります。
 不足しやすい栄養素が強化されています。
・そして、次の段階はムース状になります。
 ゼリーは甘いものが中心ですがムースになると食材の味に近づいてきます。
 ハンバーグ、餃子、かぼちゃ、ごぼうなどの味があります。

③ ピューレ、ペースト、ミキサー食

食事をミキサーし、飲み込みやすいようにとろみをつけます。
見た目はポタージュのようですが、味は普段食べていた食事に近づきます。

④ 普通の形態に近い

この段階にいくと飲み込む力も安定しています。
ムセを誘発するすっぱい物や口の中にくっついてしまうお餅などを避けています。

飲み込む力は個人差が大きいですが一般的にゼリー状⇒ムース状⇒ミキサー状と段階を踏んでアップさせていきます。
飲み込む力が落ちて「ムセ」がみられるようになっても食事の形態を工夫することで口から食べ続けられることもあります。
最近ではドラッグストアや大型スーパーなどの介護コーナーも充実しており、飲み込む力が落ちた方用の食品も増えてきています。

選ぶ目安として厚生労働省が硬さ、付着性、凝集性などを区分し基準を作っている『えん下困難者用食品許可基準』や日本介護食品協議会が形状、かむ力、飲み込む力を区分して基準を作っている『ユニバーサルデザインフード』などがあります。
選びなれていないとむずかしいものです。

食事中に「ムセ」がみられたり、飲み込む力が落ちてきて食事の工夫が必要な方、疑問や質問などがあれば、診察時に職員にお声かけください。
20160208_nutrition_02

当院が食事の形態を決めるにあたり参考にしている資料です。
参考資料
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(一部改変)
① ゼリーまたはとろみのついた水
均質でくっつきにくい、まとまり、かたさ、離水量に配慮したもの
具体的には飲み込み訓練用で販売されているゼリーや水分にとろみ剤をつけたもの。
② ゼリー、プリン、ムース状
均質でくっつきにくい、まとまり、かたさ、離水に配慮したもの
この段階になると一般販売で購入しやすい段階になる。(えん下困難者用食品許可基準Ⅱ)
③ ピューレ、ペースト、ミキサー食
均質でなめらか、べたつかず、まとまりやすいもの
この状態にくると飲み込む力は弱いですが、経口から必要な栄養をとりやすくなる。
(えん下困難者用食品許可基準Ⅱ・Ⅲ)
④ ピューレ、ペースト、ミキサー食
なめらか、べたつかず、まとまりやすいもので不均質(粒がある)なもの
(えん下困難者用食品許可基準Ⅱ・Ⅲ)
⑤ 普通の形態に近い
形はあるが押しつぶしが容易、口の中で押しつぶし、送り込みやすいもの
⑥ 普通の形態により近い
かたさ・ばらけやすさ・貼りつきやすさなどのないもの