人工膝関節置換術後のリハビリテーション

20160829_rehabilitation_01
まだまだ、暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、人工膝関節置換術後のリハビリテーションについてお話したいと思います。

<人工膝関節置換術とは?>

人工膝関節置換術とは、変形性膝関節症や関節リウマチなどにより、膝の軟骨がすり減り、痛みや腫れ、可動域(曲げ伸ばし)の制限、変形(O脚やX脚)をきたした膝の、関節面を薄く削り、金属やセラミックなどでできた人工物で覆う手術です。
関節の接合部が人工物で覆われるので、関節の痛みがなくなり、変形も矯正されます。
それにより、歩きやすくなり、日常生活が容易になります。
入院期間は、手術前の状態や家庭環境、リハビリの進行具合などにより、個人差はありますが、約1か月程度です。
また、膝関節の全部を取り換える、人工膝関節全置換術(TKA;Total Knee Arthroplasty)と、内側・外側などの悪くなっている一部分だけを取り換える単顆型人工膝関節置換術(UKA)があり、膝の状態によって医師が選択します。
20160829_rehabilitation_02

<リハビリテーションの目的>

手術前は、膝関節の痛みや変形によって、関節可動域の制限や筋力低下、歩行障害、日常生活動作の障害が生じています。
手術によって、関節の痛みはなくなり、変形も改善されますが、術後、長時間安静にしていると、関節可動域や筋力の低下が生じ、歩行や日常生活に支障が出てきます。
そのため、術後早期から、リハビリを開始し、関節可動域の改善や筋力増強、起立・歩行・トイレ動作などの日常生活動作の獲得を図り、早期回復、早期退院を目指します。

では、次に、リハビリテーションの流れについてお話したいと思います。

<手術前リハビリテーション>

患者様は手術の2日前くらいに入院し、術前からリハビリテーションを開始します。
手術前から、担当するリハビリテーションスタッフと顔を合わせ、以下のようなことを行い、安心してスムーズに手術後のリハビリテーションに臨んでいただけるよう心がけています。
◆情報収集(現在の生活様式など)
・屋内、屋外の移動手段は?
(何も持たずに歩ける?伝い歩き?杖?シルバーカー?)
・家屋内の環境は?
(トイレは洋式?和式?、入浴は?、布団?ベッド?、段差、階段は?手すりは?、etc.)
・家屋外の環境は?
(自宅周囲に坂、階段、不整地、大きな道路、etc.)
・家事
(買い物、料理、掃除、洗濯、etc.)
・趣味、社会活動
(散歩、グランドゴルフ、水泳、老人会、etc.)
◆評価(検査)
・痛み(どこが?どんなときに?どのように?どのくらい?)
・関節可動域(関節がどのくらい曲げ伸ばしできるか?)
・筋力(どのくらい力があるか?)
・下肢長(足の長さは?変形は?)
・周径(足の太さは?腫れは?)
・歩容(歩き方のチェック)
◆手術後のリハビリテーションの説明・指導
・術後のスケジュールの説明
・足のゆび、足関節の底背屈(上下)運動(静脈血栓症の予防※)
※静脈血栓症:手術後には下肢の血管(静脈)の中に血の塊(血栓)が生じやすくなります。血管が下肢の血管を塞いで血管炎を起こしたり、血栓が血管を移動して肺の血管を塞ぐ、肺塞栓症を起こしたりします。
・交互歩行器での歩行練習(手術後早期から使用します。)

<手術後のリハビリテーション>

手術後のリハビリテーションは、手術の当日、麻酔から覚めた頃から開始します。
そこから、個人差はありますが、1ヶ月程度での退院を目指して、患者様の状態に合わせて、段階的にリハビリテーションを進めていきます。
◆手術当日(麻酔が覚めた頃)
・ギャジアップ座位(ベッドを起こし座る)
・端坐位(ベッドから足を降ろして座る)
・できる範囲で軽めの関節可動域運動(膝の曲げ伸ばし)
・足のゆび、足関節の底背屈(上下)運動
・手術部のアイシング(氷枕で冷やす)
※手術部のアイシングは退院まで継続して行います。
◆手術翌日
・立ち上がり、立位練習
・交互歩行器で歩行練習
・可能であればトイレ利用開始
◆手術後3日
・関節可動域運動(目標;膝屈曲90°)
・筋力増強運動
・杖歩行練習開始
◆手術後1~2週
・関節可動域運動(目標:膝屈曲100~120°)
・筋力増強運動
・杖歩行練習
・独歩(何も持たないで歩く)練習
・階段昇降練習
20160829_rehabilitation_03
◆手術後3~4週
・関節可動域運動(目標:膝屈曲120~140°)
・筋力増強運動
・歩行練習(杖、独歩、屋外歩行)
・階段昇降練習
・自転車エルゴメーター
・退院指導(退院後の生活や自主トレーニングについて)
◆退院
・必要と判断された場合のみ、外来通院にてリハビリを継続して行います。

※以上のスケジュールはあくまで目安であり、手術前の状態や痛みの具合等により、入院期間やリハビリの進行にも個人差があります。

<関節可動域運動>

手術後の膝の関節可動域の目標は、屈曲(曲げ):120°、伸展(伸び):0°です。
関節可動域運動には痛みを伴うことが多く(個人差あり)、その原因としては、以下のようなものが挙げられます。
・膝周囲の筋肉、靭帯の短縮、柔軟性の低下
・手術部の腫れ、痛み
・膝蓋骨(膝のお皿)の動き
・患者様のモチベーション、恐怖心など
では、なぜ、そのような痛い思いをしてまで、膝を曲げたり伸ばしたりしないといけないのでしょうか。
それは、手術後、さまざまな日常生活を送るにあたって、より安全に、楽に、動作を行えるようにするためであり、一般的な目安として、各動作に必要な角度をいくつか紹介します。
・歩行:約60°
・階段昇降:約90~100°
・自転車:約120°
・椅子からの立ち上がり:約100~110°
・正座:約140°以上  ※人工関節の耐久性の面からも、正座は避けましょう。
20160829_rehabilitation_04

<筋力増強運動>

手術後の筋力トレーニングで最も大切なのは、膝関節周囲の筋肉(大腿四頭筋;太ももの表、ハムストリングス;太ももの後ろ など)の筋力強化を行って、“筋肉のサポーター”を作り、膝を安定させることです。
それに加え、股関節や足関節など、下肢全体の筋力、さらには体幹、上肢など全身の筋力増強を行うことで、歩行の安定性や歩行スピード、持久力が向上し、これが、転倒予防につながります。
20160829_rehabilitation_05

<退院後の生活での注意点>

手術後のリハビリテーションは、病院を退院したら終わり、ではなく、自宅に帰ってからも継続して、“自分でできる”運動療法を行う必要があり、また、日常生活を送る上でのいくつかの注意点もあります。
・退院時などにセラピストより指導された、“自分でできる”運動療法、膝の曲げ伸ばしや筋力トレーニングなどを積極的に行う。
・長距離のウォーキング後など、膝の腫れや熱感がある場合は、アイシングを行う。
・屋外での歩行、特に長距離になる場合では転倒予防のため、杖を使用する。
・階段は手すりを使用する。
・重い物はなるべく持たず、押し車などを利用する。
・トイレは和式ではなく、洋式を使用する。
・布団より、ベッドの方が立ち上がりやすい。
・お風呂には手すりやお風呂用のイス、滑り止めマット等を利用し、より安全に。
・正座は避けましょう。座いすなどを利用する。
・人工関節への負担を避けるため、過度な体重増加に注意する。
※標準体重=(身長-100)×0.9 (例)身長150cmの人なら、45kg

 
このように、今回は、人工膝関節置換術後のリハビリテーションについて、術前・術後のリハビリテーションや退院後の“自分でできる”運動療法、日常生活上の注意点などを一通りお話させていただきました。

当院でもこれまで多くの患者様が、この手術を受けられ、その後のリハビリを終え、家庭復帰、社会復帰されてきました。
その中に、当院の近隣に住む、70歳代の女性の患者様、S様がおられました。
S様は立ち上がりや歩行など、動作時の両膝の痛みが強く、O脚変形も著明で、両膝の人工膝関節全置換術を受けられました。
手術前、自宅内は伝い歩きや杖がなければ自分で歩くことができず、屋外は家族の方などの介助がなければ歩けないほどでした。
また、近隣とはいえ、ご自宅は勾配の急な坂道の上にあり、当院へも家族の車で通院されていました。
手術後のリハビリでは、関節可動域運動時の痛みが強く、思うようにリハビリが進まず、少し落ち込んでしまうこともありました。
しかし、「自分のためやもんね。」と、リハビリの時間はもちろん、それ以外の時間にも、病棟で筋力トレーニングや歩行練習など積極的に“自分でできる”運動療法を行っておられました。
そのかいあって、退院時には、膝関節の痛みはなくなり、変形も改善しました。
また、歩行も安定し、自宅内の移動は独歩(何も持たずに歩く)、屋外の移動は杖歩行で、それぞれ、“自分でできる”ようになられました。
退院前には自宅周囲での屋外歩行練習を行い、あの、急こう配な坂道も杖歩行で上り下りができるようになりました。
退院後しばらくすると、杖歩行で自宅から当院へ自分ひとりで来られ、リハビリ室へも元気な姿も見せてくれるようになりました。

“手術もリハビリも痛かったけどね、やって良かったわ。”

リハビリテーション科は、あなたの“自分でできる”を応援します!

メニュー