いつまでも元気に食べるために~誤嚥を防ぐ、正しい姿勢とは~

食べる事が困難になる「嚥下障害」についての記事で三回目になる今回は、「正しい姿勢で食べる」について書かせて頂こうと思います。
補足ですが、第一回目は「嚥下障害について」で、第二回目は「食べやすい食形態」でした。もし興味がある方は、過去の記事を見て頂けると嬉しいです。

「正しい姿勢で食べる」と標題しましたが、みなさんはどんな姿勢が正しいと思われますか?
食事時間になると、ダイニングまで歩いて行き、椅子に腰かけて食事をされる方も居られますが、日常を車いすで過ごす方や、ベッド上で過ごす時間が多い方も居られます。「正しい」は、人それぞれである事をご理解ください。
しかし、どの方にも当てはまる事があります。
それは、安定した姿勢であることです。
例えば、自身の身長と明らかに不釣り合いな背の高い椅子や、子供用の低すぎる椅子は、座った時の安定性がありませんね。身体的に若い世代であれば、どのような不安定な姿勢でも誤嚥なく食事が可能かも知れませんが、やはり年齢を重ね、様々な疾患が出てくる高齢の方は、潜在的に嚥下障害がある場合もあります。いつまでも元気でいるためにも、食事中の誤嚥を防ぐための安定した姿勢を知っておくことは重要なことだと、私は考えています。

では、どのような状態で食事をすればよいかというケース毎に考えていきたいと思います。

① 椅子に座って食事をする場合

・足の裏が床についている
・お尻から膝までが椅子の座面につき、深く腰掛ける
・上半身がまっすぐになっている
・少し下に俯(うつむ)いた姿勢がとれるテーブルの高さにする

このような姿勢が望ましいかと思われます。
飲み込む時、頭部が後ろにのけぞった姿勢になると、誤嚥のリスクが高まると言われます。そのため、しっかり座り、下に俯き、顎を引いた姿勢が良いのです。
患者様のご家族様に、「家でどのような椅子を準備したらいいですか?」と質問される事があるのですが、体力が衰え、食事中に疲れてしまうという方には、背もたれや肘掛けがある椅子だと、食事中に休憩することも出来るので良いですよとお薦めしています。

② 車いすで食事をする場合

・フットレスト(足置き)から足を下ろし、足の裏が床に付くようにする。付かない場合は、踏み台を置くなどの工夫をする
・上半身はまっすぐが良い。嚥下障害の状態によっては、リクライニングする必要がある
・下に俯(うつむ)いた姿勢を取れるよう、頭部の位置に気を付ける

基本的には、椅子で食事をする姿勢と同じです。身体をまっすぐにして、俯き加減で食べる事が重要です。しかし、高齢者の中には円背(えんぱい)といって、背中が丸くなっている方が居られます。円背になると、椅子に座った場合どうしても頭部がのけぞりがちになります。円背が余りに重度で、なおかつ嚥下障害が認められる患者様は、車いすの座り方を少し浅めにして、背中にクッションを挟むようにすると食べやすくなります。また、リクライニングの可能な車いすの場合は、少し後ろに傾ける方法もありますが、その場合は自分の力で食べる事が難しい場合も多々あります。

③ ベッド上で食事をする場合

・座位が可能な場合は、ベッド上に座る
・嚥下障害が明らかにある場合は30度から70度までのリクライニングにする。なお、その場合でもしっかり頭の下に枕を入れ、頭部は顎を引いた姿勢になるようにする。ベッドの角度は、嚥下の状態に合わせて調整する
・身体が傾かないように、クッションなどで姿勢を保持する

「少し風邪をひいてまだ熱があるから、今日はベッドで食事しましょう」という場合は、ベッドの上でしっかり座って食べる事も可能だと思います。しかし、日常の殆どの時間をベッド上で過ごす方は、何らかの疾患がある場合が多いでしょう。嚥下障害はあるけれども、何とか食事が可能である場合は、嚥下障害に応じたベッド角度を調整する必要があります。そのような場合は、かかりつけの先生や看護師、もしくは言語聴覚士に尋ねてみてください。

嚥下障害が疑われる方は、食事の形態や姿勢も大事ですが、それと同じくらいに食事中の環境設定も重要であると言われています。静かで落ち着いた環境にするために、テレビは消すなども効果的です。また、楽しい会話も食事が終わってからのほうがよい方も居られると思います。
疲れてどうしても眠い時や、あまりにもぼんやりされている時は、食事時間をずらすのも良いと思います。お昼ごはんが数時間ずれても、誤嚥をしてしまうよりはいいですよね。そのような臨機応変な対応をすることで防げる誤嚥もあると思います。

元来、食事は楽しいものです。
一緒に食事を摂る人とは、楽しい会話をすることもあるでしょうし、食べ物から季節を感じる事も出来ます。みなさまにとって、いつまでも食べる事が「楽しめる」ようにと思い記事を書かせて頂きました。この記事が、みなさまの「自分で出来る」の応援になれば幸いです。

最後に…

この記事を書いている現在は6月上旬なのですが、新元号になり1か月が過ぎました。現在93歳以上の方は、大正生まれになります。「大正」→「昭和」→「平成」→「令和」と4つの元号をまたいで生きて居られます。本当にすごいなぁと思います。
担当させて頂いている患者様と新しい元号の話をよくするのですが、歯が抜け落ちてしまった患者様には「れいわ」という発音は言いにくいようで、いつも「へいわ」となってしまいます。でも、何だかその間違いが素敵で、訂正せずにいます。新しい「令和」の時代が、いつまでも平和であればいいなぁと願わずにはいられません。
暑い日々が続きますが、体調を崩すことなく、元気に過ごしましょう。