腎臓にトドメを刺さないために〜不適切な使用を防ぐために薬剤師がお手伝いします!~

慢性的に腎臓の機能が低下している状態を慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)と言います。CKDには透析をしている方だけでなく、ある程度腎機能が低下した方も含まれ、重症度により分けられます(表1)。日本人のCKD患者数は約1,330万人と推計され、成人の約8人に1人はCKDという計算になります。また、透析患者数は2019年末で約33万人と増加を続けています。

当院には透析室があり沢山の末期腎不全患者さんが通院されていますが、患者さんの薬は種類や量が多く、飲みにくい味のものもあり、服用を続けていくのはとても大変だと思います。今回は、アドヒアランスの向上に繋がることを期待して、CKDに使用する薬がどのような目的で処方されているのかを合併症と共に紹介したいと思います。

表1 CKDの重症度分類(「CKD診療ガイド2012」より)

腎性貧血 ~エリスロポエチンの分泌低下が原因~

CKDの合併症の一つに、「腎性貧血」があります。「貧血」は赤血球の成分であるヘモグロビンが減少した状態を言い、原因の違いによって様々な種類がありますが、腎性貧血はその名のとおり腎機能の低下が原因となります。
腎臓からはエリスロポエチン(EPO)というホルモンが分泌されており、骨髄に作用して赤血球を産生させます。腎性貧血は、CKDでEPOの分泌が低下し、赤血球が減少して起こります。
腎性貧血の治療には、「EPO製剤」と「鉄剤」が用いられます。また、2019年には新しい機序の薬「HIF-PH阻害薬」が発売されました。

<EPO製剤>
EPOの注射製剤です。定期的に使用することで赤血球の産生を促進させ、貧血を改善します。当院ではエポエチン アルファ注、エポジン®注、ミルセラ®注などの採用があります。

<鉄剤>
ヘモグロビンの合成には鉄分が必要です。血液中の鉄分が少ない場合は、鉄を補給する薬が使われます。当院には、フェジン®注とフェロミア®錠があります。

<HIF-PH阻害薬>
低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor:HIF)は、高山などで低酸素状態になると体内で作られる蛋白質です。HIFはEPOの産生を促進し、また、体内での鉄利用を亢進させる働きがあります。HIF-プロリン水酸化酵素(HIF-prolyl hydroxylase:HIF-PH)はHIFを分解する作用がありますが、このHIF-PHの活性を阻害するのがHIF-PH阻害薬です(図1)。EPO製剤が注射剤であるのに対し、HIF-PH阻害薬は内服薬です。当院ではエベレンゾ®錠が処方されています。

慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-mineral and bone disorder:CKD-MBD)
~カルシウムとリンの調整が重要~

「CKD-MBD」も合併症の一つで、カルシウムとリンの血液中の量が異常値になり様々な疾患を引き起こしてしまいます。
腎臓はビタミンDを活性化し、カルシウムの吸収を増加させます。また、尿中へリンを排泄しています。腎機能が低下すると、血液中のカルシウムが低下し、リンが上昇します。

副甲状腺は、甲状腺の周囲に4つある米粒程度の小さい臓器ですが、ここから分泌される副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)は、血液中のカルシウムを一定に保つ働きがあります。CKDで低カルシウム、高リン状態になると、PTHが過剰に分泌される「二次性副甲状腺機能亢進症」を引き起こします。PTHは骨を溶かすことでカルシウム濃度を上昇させるため、骨がもろくなります。

また、今度は高カルシウム血症、高リン血症になり、リン酸カルシウムが血管、内臓、関節などに沈着して「異所性石灰化」が起こります。異所性石灰化の症状は部位により様々で、血管では動脈硬化が起こり、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の原因となります。心臓では弁膜症や心不全、肺では呼吸不全、皮膚では痒み、関節では関節炎による痛みなどが起こります。

多くの疾患が出てきて恐ろしくなりますね。これらの合併症を防ぐには、カルシウム、リン、そしてPTHの調整が大切になります。
CKD-MBDに使用する薬は、「活性型ビタミンD製剤」、「リン吸着剤」、「二次性副甲状腺機能亢進症治療薬」があります。

<活性型ビタミンD製剤>
CKDでは腎臓でのビタミンDの活性化が障害されているため、活性型のビタミンDを薬として服用します。使用中はカルシウム濃度を定期的に測定し、高カルシウム血症に注意します。当院にはオキサロール®注、ロカルトロール®錠などがあります。
※サプリメントやデノタス®チュアブル錠(カルシウム/天然型ビタミンD/マグネシウム配合剤)に含まれる天然型ビタミンDは、腎臓での活性化が必要なため、CKDでは効果が期待できません。

<リン吸着剤>
食事中に含まれるリンを腸管内で吸着し、小腸からのリン吸収を抑制する薬です。当院にはホスレノール®OD錠、リオナ®錠が採用です。

<二次性副甲状腺機能亢進症治療薬>
PTHの分泌を抑制する薬で、当院ではレグパラ®錠が採用です。副作用でカルシウム値が低下するため、投与中は定期的にカルシウム値を測定します。また、PTHも定期的に測定する必要があります。

その他の薬

<カリウム吸着剤>
CKDでは腎臓からのカリウム排泄が低下し、高カリウム血症になります。不整脈が誘発される危険があるため、カリウム値を下げる必要があります。カリウム吸着剤は、食事中のカリウムを吸着して小腸からの吸収を抑える薬です。当院にはカリメート®経口液、ケイキサレート®散があります。

<毒素吸着薬>
消化管の老廃物や毒性物質を吸着して体外に排出し、尿毒症症状を改善、透析になるまでの期間を遅らせる効果があります。この薬は他の薬も吸着してしまうので、他剤とは時間をずらして服用する必要があります。当院ではクレメジン®速崩錠が採用です。

CKD患者さんに使用する場合に注意が必要な薬 ~腎機能障害が起こりやすい薬・腎排泄型の薬~
ここまではCKDに使用する薬を紹介しましたが、次はCKD患者さんには慎重に使用しないといけない薬を紹介します。大きく分けて二つのタイプがあり、一つは腎機能を悪化させる薬、もう一つは腎臓から排泄される薬です。このような薬は数多くあるのですが、使用頻度が高く特に注意が必要な薬を挙げました。

<非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)>
解熱・鎮痛・抗炎症作用をもつ薬で、ロキソプロフェン錠やセレコキシブ錠などがあります。腎臓の血流量を減少させる副作用があり、服用を続けると腎機能が低下することがあります。CKD患者さんが使用する場合は短期にとどめ、長期使用が必要な場合は他剤への変更も検討しましょう。

<利尿薬>
尿量を増加させて体の過剰な水分を排泄し、むくみなどを改善する薬で、フロセミド錠、アゾセミド錠、スピロノラクトン錠、サムスカ®錠などがあります。しかし、循環血漿量の減少により腎血流量も減少するので、腎前性腎機能障害の原因となる可能性があります。使用する場合は、腎機能の悪化がないか定期的に確認していきます。

<ACE阻害薬・ARB>
どちらも降圧剤で、ACE阻害薬にはエナラプリル錠、タナトリル®錠、ARBにはオルメサルタン錠、アジルバ®錠などがあります。腎保護作用がありCKD合併高血圧には第一選択薬なのですが、腎血流量を減少させるため腎機能が悪化することがあります。高度腎機能障害では特に起こりやすく、他剤への変更が推奨されています。

<酸化マグネシウム剤>
便の水分量を多くし、軟らかくして排便を促す薬です。マグミット®錠などがあります。酸化マグネシウムは腸からはほとんど吸収されませんが、ごくわずかだけ体内に吸収されます。その後は腎臓から排泄されますが、CKDでは排泄が低下して高マグネシウム血症となります。症状は悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠などで、重篤な場合は呼吸抑制、意識障害、不整脈、心停止に至ることがあります。CKDや高齢者は定期的にマグネシウム濃度を測定する必要があります。

腎臓にトドメを刺さないために〜不適切な使用を防ぐために薬剤師がお手伝いします!~

NSAIDs、利尿薬、ACE阻害薬またはARBの三剤併用を「トリプルワーミー(triple whammy)」と呼び、単剤だけの使用と比較して急性腎障害(acute kidney injury:AKI)のリスクが高まります。三剤併用にならないよう気を付けたいところですが、どの薬も頻用されており、例えば内科で利尿薬とACE阻害薬を処方され、整形外科からNSAIDsが処方されると簡単にトリプルワーミーが出来上がってしまいます。

Webで、AKI発症防止を呼び掛けるポスターを見つけました(図2)。薬局などに対して、トリプルワーミーへの注意喚起を行っています。AKIの発症防止に役立つのは「かかりつけ薬局」や「おくすり手帳」です。かかりつけ薬局は、複数医療機関の薬の重複や相互作用をチェックしており、トリプルワーミーを見つけることが可能です。お薬手帳は受診時に医師に渡して、他院の服用薬を確認してもらいましょう。私たち病院薬剤師も、カルテや服薬指導を通して不適切な処方がないかを確認し、一人一人の患者さんの「腎臓の延命」を目指しています。

図2「STOP!AKI」ポスター(滋賀医科大学医学部付属病院HPより)

最後に

CKDの薬は種類が多いですが、我々薬剤師は、重複、過量、効果がない等の不適切・不必要な薬や、副作用が出ている薬が有れば減らしたいと日々考えています。薬に関して困った事や心配な事などがあれば、気軽に薬剤師に相談してください。