「自宅でできる」変形性膝関節症対策~みどり病院リハビリテーション室より~

「腰が痛い。」「膝が痛い。」
皆さんの中に、年齢を重ねるにつれて腰や膝の痛みが気になってきたという方はいらっしゃいませんか?高齢者の身体の痛みの訴えで最も多いのは、腰背部の痛みと膝関節の痛みであると言われています。その中でも今回は、高齢者の膝の痛みの原因として最も多い変形性膝関節症の症状や予防についてお話します。

<病態、原因>

変形性膝関節症は加齢や肥満などの影響によって、膝関節の表面を覆いクッションの役割をしている軟骨が少しずつすり減っていくことで、関節が変形したり骨がこすれて痛みが生じる病気です。罹患者は加齢とともに増加し、高齢女性に多い疾患と言われています。

<症状>

  • 膝の痛み:歩き始めの数歩、椅子から立ち上がる瞬間、階段の昇り降りなどで痛みが生じる場合が多いと言われています。また、歩き始めてから一旦痛みが軽減した後も、長時間歩き続けると再び痛みが強まる場合もあります。
  • 関節水腫:いわゆる膝に水がたまった状態のことです。膝の上側が腫れることが多いと言われており、関節水腫が原因で膝が曲げづらくなることもあります。
  • 膝関節の可動域制限:膝のこわばり、膝が伸ばしづらい(平らなところで足を伸ばしても膝の裏が床にぴったりと付かない。)、曲げづらい(膝を深く曲げると痛む。正座ができない。)、膝を曲げ伸ばしすると「ゴリゴリ」、「ギューギュー」といった音がしたり、違和感を覚えます。
  • 膝の変形:O脚(直立姿勢をとると両膝の間が拳一つ分以上離れる。昔に比べて「がに股」になってきたなど。)、X脚(直立姿勢をとると太もも、両膝はくっつくが踵同士がくっつかない。膝下が八の字に開いているなど。)

<治療>

変形性膝関節症の治療は、「保存療法」と「手術療法」の2つに分けられます。

「保存療法」

  • 薬物療法:鎮痛剤の内服、関節内注射などで痛みを抑えたり、関節の動きを滑らかにします。
  • 装具療法:サポーターなどの膝関節装具、足底板などを利用し、体重のかかる位置を変化させたり、関節の安定化を図ることで歩く姿勢を良くし、痛みの軽減を目指します。
  • 運動療法、生活指導:医師の指示のもと、私たち理学療法士が患者様それぞれに合った運動メニューや生活習慣の提案をさせていただきます。

「手術療法」
保存療法で症状の改善が得られない場合に手術療法が選択されます。

<症状進行度が中期(正座や階段の昇り降りが困難)の場合>

  • 関節鏡視下手術:関節鏡で膝関節内の洗浄を行います。
  • 高位脛骨骨切り術:膝下の骨を切って、正常な膝の形に近づけます。身体活動性が高く、症状が著しい方に適応されることが多いです。

<症状進行が末期(安静にしていても膝が痛い、関節の変形が目立つ、膝が伸びにくい、歩行困難)の場合>

  • 人工膝関節置換術:膝関節を金属や樹脂の人工物に入れ換えます。手術後からすぐに立ったり、歩いたりすることができ、痛みと歩行能力を改善させます。

今お伝えした治療の中で、「運動療法」は変形性膝関節症の予防や進行を緩やかにするために有効であるとされています。特に太ももの前側の筋肉、太ももの外側の筋肉を鍛えることで膝関節の安定化が図れ、疼痛軽減、歩行能力改善に効果があると言われています。また、変形性膝関節症の発症、悪化の原因である肥満の解消にも効果があると考えられます。
そこで、ご自宅で“自分でできる”「運動療法」をいくつかご紹介したいと思います。

<自宅でできる運動療法>

  • 痛みの出現、強い疲労感を感じた場合はすぐに中止してください。
  • 勢いよく運動すると腰などに痛みが生じる危険性があります。“ゆっくり”、“痛みの無い”、“無理の無い”範囲で動かしていきましょう。
  • 「1・2・3・4」などと回数を声に出して数えながら運動を行い、息を止めたまま動作をしないように意識してください。
  • 1セット15~20回ずつ、1日2~3セットを無理のない範囲で始めてみましょう!
①太ももの前側の筋肉を鍛える―その1―

タオルやクッションを膝の下に入れます。踵を床面につけたままタオルやクッションを押しつぶすように膝を伸ばし、5秒ほど膝を伸ばした状態をキープし、力を抜いて戻します。
※反対側の膝は立てて座りましょう。

②太ももの前側の筋力を鍛える―その2―

椅子に腰かけ、両手で椅子を握ります。膝をまっすぐ伸ばし、元に戻します。
※運動中、つま先は天井を向いたままになるよう意識しましょう。

③太ももの前側の筋力を鍛える―その3―

仰向けに寝転びます。片方の膝は立てて、もう一方の膝をまっすぐ伸ばしたまま真上に持ち上げ、元に戻します。
※運動中、つま先は天井を向いたままになるよう意識しましょう。

④太ももの外側の筋力を鍛える

横向きに寝転び、下側の足は軽く曲げます。膝をまっすぐ伸ばした状態で、上側の足を真上に持ち上げ、もとに戻します。
※持ち上げる方の足が身体より前に出ないよう気を付けましょう。
※運動中、つま先は前を向いたままになるよう意識しましょう。

最後に…
1年以上続く“コロナ自粛”の影響で、ご自宅で過ごされる時間が増えたのではないかと思います。引き続き、新型コロナウイルスに感染しないために、人混みを避け、手洗いを中心とする感染予防を心がけましょう。
ただ、感染を恐れるあまりに外出を控えすぎてコロナ禍前に比べて運動機会が減ってはいませんか?1週間の安静臥床で約15~20%筋力が低下してしまうと言われており、その回復にはそれ以上の時間がかかってしまいます。

まずはご自宅の中で、“自分でできる”運動から始めていきましょう。始めは横になっている時間、座っている時間、動かない時間を減らすだけでも構いません。先程お伝えした運動は膝に痛みがない人にも効果がありますし、テレビCMの間に足踏みをしたり、ラジオ体操のような簡単な運動でも筋肉の衰え予防に役立ちます。
先の見えない自粛生活ですが、体力維持のため、心と身体の健康のために定期的な運動を行い、おうち時間を有効活用するのはいかがでしょうか?

リハビリテーション科はあなたの“自分でできる”を応援します。