褥瘡(床ずれ)の治療について 〜外用薬は適『剤』適所が大切です〜

褥瘡(じょくそう)は一般的には「床ずれ」ともいい、寝たきりの高齢者にできやすい皮膚の障害です。治療には数種類の外用薬が使用され、褥瘡の状態に応じて使い分ける必要があります。今回は褥瘡の発生と、治療に使う外用剤についてまとめました。

褥瘡はどうしてできるのか ~健康な人にはできません~

褥瘡は「身体に一定時間圧がかかり、骨と皮膚表層の間の軟部組織(皮下脂肪、筋肉など)の血流が低下し、組織が壊れた状態」をいいます。
長時間椅子に座っていると、お尻が痛くなることがありますね。その部分には身体を支えている骨が当たり、圧がかかっているのです。健常人ではお尻には十分な皮下脂肪と筋肉があるため、クッションのようになって圧を分散してくれます。また、お尻の位置を移動させ、圧迫される場所を変えることもできます。しかし、痩せている高齢者ではクッションになる組織が少なく、骨からの圧が直接皮膚に伝わってしまいます。また、自分で身体を動かせない場合は、圧がかかる位置を変えることができません。このような状態が続くことで褥瘡ができてしまいます。

どのような場合に褥瘡ができやすいのか ~リスク因子は様々です~

褥瘡の発生要因は大きく分けて局所的要因、全身的要因、社会的要因の3つに分類できます。単独でも褥瘡は発生しますが、様々な要因が重なるとさらに発生しやすくなります。当てはまる要因がある場合は出来るだけ要因を取り除き、褥瘡が発生していないか観察していくことが大切です。

  • 局所的要因:局所の圧迫、骨の突出、関節拘縮、浮腫、加齢による皮膚の変化、摩擦、失禁・湿潤、局所の皮膚疾患
  • 全身的要因:低栄養、痩せ、加齢、基礎疾患、身体の麻痺や動きにくい状態
  • 社会的要因:介護力不足、情報不足、経済力不足

褥瘡を予防するためには ~体位変換以外にも出来ることはあります~

褥瘡はまずは作らせないことが第一です。そのためには体圧管理、栄養管理、皮膚の管理を行います。

  • 体圧管理:寝たきりの人は、褥瘡が発生しやすい状態になっています。褥瘡は骨が突出した部位に発生しやすいため、長時間そのような部位に圧がかからないようにします。体位を変換したり、体圧分散寝具を活用したりすることで褥瘡の発生を予防します。また、拘縮の改善を目的としたリハビリテーションは褥瘡の予防に効果があります。
  • 栄養管理:栄養状態が悪いと皮下脂肪や筋肉量が減少して、多くは骨突出がみられるようになります。褥瘡の予防や発生後の治癒の促進には、必要量のエネルギーとタンパク質の摂取が大切になります。タンパク質の一種である血清アルブミンの数値は栄養状態の指標の1つであり、低下している患者は褥瘡発生のリスクが高い状態といえます。この場合、食事内容の見直しや、必要であれば経管栄養・静脈栄養の使用などにより栄養状態を改善していくことが大切です。褥瘡患者さんの栄養については「薬剤師のためのタンパク質シリーズその②~使い方によって逆効果?病態に応じて考えよう、タンパク質・アミノ酸製剤~」で詳しく書かれていますので、ご参照ください。
  • 皮膚の管理:高齢者の皮膚は乾燥しており、外部からの刺激に対して弱い状態です。障害を受けた場合は褥瘡になりやすいため、普段から保湿ローションや皮膚保護剤で皮膚の状態を改善しておきます。逆に、失禁などで湿りすぎた状態も皮膚には良くないため、オムツの管理も大切になります。

褥瘡ができてしまったら ~褥瘡治療薬について~

上述のような予防をおこなっていても、褥瘡ができてしまうことはあります。その場合は治療を行うことになりますが、まずは褥瘡が出来てから治癒するまでの過程を説明します。

褥瘡の病期分類
褥瘡には皮膚壊死が真皮浅層に止まる浅い褥瘡と、皮下脂肪組織以下に及ぶ深い褥瘡とがあります。浅い褥瘡は、創傷被覆材*で創部を保護することで、短期間で治癒することも多いですが、深い褥瘡では治癒までに1年以上かかることもあります。深い褥瘡が治っていく過程で、褥瘡の表面の色に変化があります。通常は「黒色期」→「黄色期」→「赤色期」→「白色期」の順で推移します。

「黒色期」は壊死した組織の塊が黒く変色して付着した状態で、「黄色期」は塊上の黒色壊死組織が取り除かれ黄土色の深部壊死組織や不良肉芽が露出するようになる状態です。「赤色期」は褥瘡が治る過程で肉芽組織が成長してくる時期です。肉芽組織が盛り上がり、周囲の皮膚との段差がなくなると周囲皮膚から創部の皮膚ができて塞がる過程が始まります。この時期を「白色期」と言います。(図1)

*創傷被覆材:ドレッシング材ともいい、医療ガーゼを改良して開発されました。創を覆って保護する以外にも、壊死組織の融解、浸出液や血液の吸収、保湿などの働きがあり、創傷治癒を促進させます。多くの種類が販売されています。

図1 褥瘡の病期分類

褥瘡に使用する薬
褥瘡に使用する外用薬は数種ありますが、大きく2種類に分けて効果を説明します。

当院採用薬:ゲーベン®クリーム、ユーパスタコーワ®軟膏、プロスタンディン®軟膏、フィブラスト®スプレー、オルセノン®軟膏

wound bed preparationとは ~「黒色期」と「黄色期」の治療~

wound(傷) bed (床)preparation(準備)は日本語では「創面環境調整」といい、創傷の治癒を促進するために創面の環境を整えることです。具体的には、壊死組織の除去、感染制御、創部の乾燥防止、過剰な浸出液の制御などを行います。

使用する薬(図2)
浸出液が過剰な場合:ユーパスタコーワ®軟膏、カデックス®軟膏、ブロメライン®軟膏
浸出液が適正~少ない場合:ゲーベン®クリーム

moist wound healing ~「赤色期」と「白色期」の治療~

日本語では「湿潤環境下療法」といい、創面を湿潤した環境に保持する方法。浸出液には肉芽を盛り上げようとする増殖因子が多く含まれており、創面をウレタンフィルムなどで閉鎖して浸出液が適度な状態を作り、湿潤環境を保ちます。浸出液は少なすぎても多すぎても良くないため、適度な状態にするために外用薬Fや創傷被覆材を使用します。

使用する薬(図2)
浸出液が過剰な場合:アクトシン®軟膏、ユーパスタコーワ®軟膏
浸出液が適正~少ない場合:フィブラスト®スプレー、オルセノン®軟膏、プロスタンディン®軟膏

図2 褥瘡に使用する薬の使い分け

薬以外の治療法 ~閉鎖陰圧療法~

欠損した創にシリコンチューブを入れてウレタンフィルムなどで閉鎖し、吸引装置を使って陰圧にします。創の保護、浸出液や細菌の除去、創の血流改善、肉芽形成作用などがあり、効率的に褥瘡を改善することが出来ます。(図3)

図3 Vacuum Assisted Closure®(V.A.C.®)療法

最後に

当院では褥瘡がある患者さんを、医師、看護師、栄養士、リハビリ専門職、薬剤師のチームで回診し、治療方法などについて話し合っています。薬剤師は「適切な外用薬が選択されているのか」を注意深く確認し、また栄養状態が良くない場合は、経管栄養や静脈栄養の使用についても提案しています。これからも患者さんの褥瘡の改善に、少しでも役立てるよう積極的に関わっていきたいと思います。