再び話題に!「美味しく安全に食べられる」に理解を〜放射線技師の目線で、食品と放射性物質の関係を考えてみました〜

8月にぶどう狩りに行って、大きいシャインマスカットを取ってきました。このように直接自分で取りに行くと食べ物の産地ははっきりしていて安全だとはっきり分かりますよね。ただ、普段スーパーで買っているものは産地こそ分かりますが、取っているところを直接見ていないので不安な部分もあると思います。そして、皆さんが毎日おいしく食べているご飯やおかずの中には、産地がどこであろうと場所に関係なく放射性物質が含まれていることをご存知ですか?

2011年に起きた東日本大震災で福島原発の事故が起こったことで少し話題になりました。現在も、処理水の放出などがテレビや新聞で問題になっていますが、現在では影響は全く無く国内産のものであれば安心して食べることが出来ます。それは、今でも多くの食品で放射性物質の測定を行ったり、品質検査を行っているからです。

今回は、食べ物に含まれる放射性物質がどんなものなのか、いかに国内の食べ物が安全なのか少しお話したいと思います。

○放射性物質が多い食品とは

食品に含まれる放射性物質は主にカリウム40というもので、通常の放射性物質でないカリウムはほうれん草やブロッコリーなど普通の食品にも入っており、心臓機能の調整やナトリウムを尿中へ排泄し血圧を下げるなどの効果があります。カリウムには同じカリウムでも原子量が39、40、41と3種類あり、40のみが放射能を持つ放射性物質になります。

そのカリウム40が多い食品は、

  • 干し昆布…2000ベクレル
  • 干し椎茸…700ベクレル
  • ほうれん草…200ベクレル
  • 牛肉…100ベクレル
  • 魚…100ベクレル

となります。次にこの量がどれくらい身体に影響があるかをお話します。

○どのくらい身体に影響ありますか?

カリウムは、放射性の有無にかかわらず高血圧の原因になる体内の余分なナトリウムを排出して、血圧を下げる効果があるため、適度な摂取は体のバランスを取るために非常に重要です。
成人では体内に体重1kg当たり約2gのカリウムが含まれており、このうちの約0.01%がカリウム40で、3000~6000ベクレルほど存在しています。通常でも食べものを口にすることで、毎年0.4ミリシーベルトくらい体に取り込んでいます。※

※食品からの被ばく線量を計算式により計算(ベクレル→シーベルト)

原発事故後は、厚生労働省など調査した結果、年間で0.02〜0.003ミリシーベルトとほぼ僅かな量だけ増えました。これは、今まで食べてきたものより1/205~1/1306くらいの増加量で、最も多い量でも1回の胸部レントゲンよりも倍以上少ない被ばく量になります。
リンパ球減少といった体感ではわからない僅かな影響が500ミリシーベルトから起こりますが、仮に、最も増えた場合でも、80年間摂り続けて1.6ミリシーベルトです。放射線による影響より寿命の方が先にきてしまいます。

被ばくの影響については以下記事にも書いていますので、もしお時間があればご覧ください。

「見えない放射線、毎日測っています~患者さんの安心と安全の徹底を目指して~」
https://midori-hp.or.jp/radiology-blog/web20220805/

○放射性カリウム?セシウム?物質について

カリウムとセシウムは化学的な性質が似ているため、化学的性質がカリウムとよく似ているため、体に入ったらカリウム同様ほぼ全身に分布します。他にはストロンチウム90という物質はカルシウムと似ているため体に入ると骨に蓄積します。
これらの物質は体内に取り込んだあと時間と共に体内から減少します。1つは放射性物質の放射能が時間と共に少なくなり、もう1つは尿や便から排泄されるためです。

○ベクレルとシーベルト。単位のお話

ベクレル(Bq)は放射能の強さを表す単位で、数値が大きいほど高い放射線を出す能力を持っています。一方、シーベルト(Sv)は人が受ける放射線被ばく線量の単位で、人体にどれだけ影響があるかを示す単位になります。
食品に含まれる放射性物質の量(ベクレル)に実効線量係数というものをかけた数値が被ばく線量(シーベルト)となります。実効線量係数は同じ物質でも、大人と子供では感受性が違っており、子供の方が感受性が大きいので、同じ実効線量係数の食物を食べても大人より子供の方が被ばく線量が多い計算になります。

○殺菌処理の過程で、あえて食べ物に「食品照射」する場合もある??

今までのお話は地震による原発事故等で起こった不慮の放射線影響を前提としたお話でしたが、ここでは故意に放射線を照射するお話をします。
食品照射とは、食べ物に放射線を当て殺菌、殺虫、芽止めを行なうことです。放射線を物質に当てることで本来持っている修復能力を超えたDNA損傷を起こすことで、DNA複製を阻害、細胞分裂を抑制することができます。放射線処理は、薬剤を使わないので滅菌後の処理が不要で、原材料の状態をそのまま保つことができ、工程管理も簡単なため利用されています。
しかし、日本では食品衛生法によりジャガイモの発芽防止のみ行われています。

○さいごに

放射性物質と食べ物については厚生労働省と農林水産省から以下のようなポスターも出ており、基本的には全く気にせず食べることができます。1番最初にもお伝えしましたが、今現在でも原発に近い福島県などの東北地方では食べ物の放射線測定を行っており、人体に害が出る最低限の放射線量よりかなり低い基準で厳しい検査を行っています。
当時もっとも大変だったのは風評被害だったと思っています。放射性物質は目に見えないので、特に不安を煽ったのではないかと思います。皆さんが正しく放射線のことを知り、おいしいものを食べられたら消費者も生産者も幸せになれると思います。

引用:厚生労働省ホームページ