脳血管性認知症(Vascular Dementia:VD)ってご存じですか?

【認知症について】

脳は私たちのあらゆる活動をコントロールしている司令塔です。指令がうまく伝わらなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。認知症とは、様々な原因で脳の細胞の動きが悪くなったために障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6か月以上の継続)をいいます。

認知症の原因疾患は沢山ありますが、今回は「三大認知症」(アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・脳血管性認知症)の中でアルツハイマー型認知症の次に多く全体の20%を占めている脳血管性認知症(Vascular Dementia:VD)についてお話していこうと思います。

【脳血管性認知症とは】

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により、認知症を発症することを指します。
脳血管障害により脳への血行が阻害されると、阻害部位より脳細胞が死滅し、死滅範囲や部位に応じて様々な症状が現れます。その症状の一つが脳血管性認知症です。

【原因】

脳血管性認知症の原因となる脳血管障害は以下のいくつかのタイプに分けられます。

①多発性脳梗塞
→大・中血管の閉塞による多発性脳梗塞
②小血管病変型
→広範囲な小血管病変による脳梗塞・循環不全
a 多発性ラクナ梗塞
b Binswanger病
③局在病変型
→海馬など認知に関わる重要な部位の単発梗塞
④その他
→低血圧や脳出血など

この中でもa多発性ラクナ梗塞が最も多いと言われています。

【症状】

脳血管性認知症の大きな特徴として、うつ・自発性の低下、感情失禁(感情が不安定になり、些細な出来事で泣いたり笑ったりする症状)や、まだら認知症(記憶力や注意・集中力の低下などの認知症状が一定しておらず、まだらに低下している)などが挙げられます。

認知症と聞くと記憶力の低下をイメージされる方が多いと思いますが、脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症と比べ、記憶力は比較的保たれており、出現している症状に対しての自覚がある場合があります。
上記に加え、梗塞部位や範囲によって、症状は様々ですが、半身麻痺や嚥下障害、高次脳機能障害などが生じます。

また、特に気を付けなくてはならない症状は、自発性の低下・無気力・無関心です。
その理由として、この三つの症状は無為・閉じこもりなどを助長し、身体機能に障害がある場合はなおさらのこと、心身共に廃用症候群になり、さらに認知機能低下へつながるといった悪循環を起こす可能性が高いからです。

脳血管障害後に生じる脳血管性認知症は、ご本人に症状の自覚があったり、症状がまだらに生じていることでまさか自分が自分の家族が認知症になったと思わず、症状の発見が遅れる傾向にあるといわれています。

【経過】

脳血管性認知症では、脳梗塞が起きる度に認知症が段階的に悪化することが多いです。
脳梗塞の範囲と認知症発現には相関があり、脳梗塞範囲が広範囲に渡ると認知症の頻度が著しく増加するといわれています。

脳血管性認知症の経過として、脳血管障害で生じた症状が安定し、脳血管障害の再発や、転倒などを防ぐことができれば、急激な悪化をある程度予防できるという点が脳血管性認知症の経過の特徴でもあります。

【診断と治療】

<診断>
多くの場合、脳血管障害発生後に脳のCTやMRIによる画像診断で障害部位を把握し、認知機能に関わる部位の損傷と、それに対する認知症状が発症した時に認知機能検査などの検査を行い、診断されます。
また、脳の血流量が低下している場合も同様に脳機能低下が生じるので、SPECT(血流量シンチグラフィー)などにより、血流量を測定することもあります。

<治療>
脳血管障害の再発防止と転倒・肺炎等の予防に努めながら、リハビリテーションに取り組み、身体機能や高次脳機能などの回復を目指し、維持に努めること。
また、閉じこもりによる認知症の進行予防の為に、積極的にデイサービスなどに参加することも大事なことだと思います。
それに加え、血圧や血糖をコントロールするなど医療との継続的な関わりを行うことも再発防止に大切なこととなってきます。

-最後に-

ここ1~2年高齢者の交通事故のニュースをよく見かけます。
今年80歳になる私の祖父も現在車やトラックの運転を続けています。
祖父にニュースについて投げかけると「怖いね~。けど、じいちゃんはまだ大丈夫」と話します。ご自身がこう思っている方や、こういった話を聞く家族さんは多いのではないでしょうか。本当にまだ大丈夫ですか?事故を起こしてからでは遅いです。
車が無くなると生活が変わってしまい、大変なことも多いかもしれません。
しかし、命に代えられるものは何もありません。

神戸市では、65歳以上の市民が無料で認知症診断を受けられるサービスを提供しています。当院も2020年11月より対象病院となりました。少しでも不安を感じられた方は、早めに認知症の検査を受けてみてください。私の祖父には定期的に検査を受けるように伝えています。
~リハビリテーション科はあなたの“自分でできる”を応援します~