認知症をとりまく環境2024~最近もの忘れが増えたかも?早めの検診が大切です~

認知症の方はどのくらいいるでしょうか?

厚生労働省の研究班が2024年5月8日に公表した結果によると、65歳以上の高齢者の認知症の有病率は12.3%、MCI(軽度認知障害)の有病率は15.5%であったそうです。この研究は2022年から2023年にかけて実施されたもので、現在わが国には、約443万人の認知症の方と、約558万人のMCIの方がいるということになります。

認知症とMCIの有病率の和は27.8%で、2012年に報告されていた予測値 28.0% と比べ、大きな差は認められませんでした。しかし内訳をみてみると、2012年に予測されていた有病率は認知症が15.0%、MCIが13.0%となっており、この12年間でMCIから認知症へ進行した者の割合が低下した可能性があるのではないかと言われています。

その背景には、成人の喫煙率の低下や、中年期~高齢早期の高血圧や糖尿病、脂質異常などの生活習慣病管理の改善、健康に関する情報や教育の普及による健康意識の変化などが関係しているようです。それぞれの意識や行動の変化によって、認知機能低下の進行が抑制されるのであれば大きいですね。

ここでMCIと呼んでいるのは、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)のことです。MCIは、認知症そのものではありません。しかし健常な状態でもありません。認知症と健常な状態の「中間のような状態」です。(厚生労働省「あたまとからだを元気にする MCIハンドブック」より)

「あたまとからだを元気にする MCIハンドブック」公式サイト:
https://www.mhlw.go.jp/content/001100282.pdf

MCIでは、1年で約10%の人が認知症に進行するといわれています。一方で、適切な予防を行うことで、約30%の人は健常な状態に戻ることがわかっています。そのため、早期から認知症予防の対策を行っていくことが重要です。

認知症とMCIの違いはどのようなものでしょうか?

まず認知症は、日常生活に時折支障が生じる程度に認知機能が低下している状態と言われてきました。MCIの人は、大体の日常生活を問題なく送ることができる状態です。ただし、新しいことや新しい場所、新しい機械などの操作は苦手になってきています。

誰でも認知機能は年齢とともに低下していきますが、MCIの人は、認知機能のレベルが「年相応」よりも低下している状態です。全てのMCIの方に当てはまる訳ではありませんが、記憶力に軽度の低下がみられる場合が多く認められます。

どのようにして確かめればよいでしょうか?

「もの忘れが気になるけれど、自分はMCIや認知症なのだろうか」と不安になることがありますよね。「自分ではもの忘れはないと思っているけど、そろそろ歳だし検査しておいたほうがいいかな」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。少しでも不安があれば、なるべく早めに医師の診断を受けることが大切だと言われています。

神戸市では、認知症の方やそのご家族が安心・安全に暮らしていけるよう、65歳以上の市民を対象に早めの受診を支援する「認知症診断助成制度」と、認知症の方が外出時などで事故に遭われた場合に救済する「認知症事故救済制度」を組み合わせて実施しています。神戸市民の方が対象とはなりますが、65歳以上の方は、自己負担額ゼロで医療機関における2段階方式の認知症検診を受けることができます。

当院では、第1段階の認知機能検診を行っています。この検診は、MCIも含めて認知障害の疑いが「ある」か「ない」かを診るための検診です。認知症の疑いがある方には認知機能精密検査(第2段階)の受診をご案内しています。

認知症やMCIが心配になってきた方は、ぜひ早めの受診を支援する「認知症診断助成制度」を活用してみてください。申込方法は、神戸市のホームページ「認知症の人にやさしいまち 認知症神戸モデル特設サイト」や当院に掲示しているポスター等をご参照ください。

新薬「レカネマブ」

2023年9月にアルツハイマー病の進行を抑制する世界初の治療薬レカネマブ(製品名レケンビ)の製造販売が日本で承認され、大きなニュースになったことは記憶に新しいですね。レカネマブはアルツハイマー病の患者さんの脳に蓄積して神経の働きを阻害する「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるたんぱく質を取り除き、症状の進行を遅らせる効果が期待できるそうです。

気を付けないといけないのは、「進行を遅らせる」ものであって、「治療する」ものではないという点です。すでに病気が進行してしまっている患者さんには効果が小さいそうです。レカネマブは、アルツハイマー病の「早期段階」にある患者さんにとって認知機能の低下を遅らせ、QOL(生活の質)の改善につながる可能性があるのです。

認知機能の低下が早期の段階で早めに医療機関を受診することが、ますます大切だと思われます。レカネマブについてもっと詳しく知りたい方は、当院の薬剤科の記事「アルツハイマー型認知症〜新薬(レケンビ®点滴静注)登場にて今後の認知症治療が変わるか?〜」をご覧ください。

関連記事:
アルツハイマー型認知症〜新薬(レケンビ®点滴静注)登場にて今後の認知症治療が変わるか?〜
https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20240527-2/

最後に…

先日TVを見ていると、血液検査でアルツハイマー病に関連するたんぱく質の存在を確認することができるようになるかもしれないというニュースが流れました。現在、アルツハイマー病関連の血液検査は臨床試験が行われているところだそうです。数年以内には、症状がまだ出ていない、発症前のアルツハイマー病の前兆を1回の血液検査で発見できるようになるかもしれないそうです。

新薬と血液検査を組み合わせることが出来る時代がくると、認知症を取り巻く環境は大きく変わるのではないでしょうか。厚生労働省の研究班が2024年5月8日に公表した報告の中には、2040年には認知症の方が約584万人、MCIの方が約612万人にのぼると推計されています。新薬と血液検査の組み合わせで、予測を下回る結果になってほしいなと思います。

リハビリテーション科では、神戸市の認知機能検診の検査をはじめ、入院中や外来の方の認知機能検査を担当しています。早期にリスクを発見し、意識や行動の変化によって、認知機能低下の進行を遅らせ、自分らしいすこやかな生活を長く続けていけるようにしていきましょう。

みどり病院リハビリテーション科は、あなたの“自分でできる”を応援します。