毎年一つの漢字を決めています。一年を象徴するような、また目標となるような字を選んでいます。もう今年は大変遅くなってしまい、1年の半分が以上過ぎてしまいましたが今年は「黎」という字にしました。『黎明期』とか『黎民』『黎元』などの言葉があります。もともとの意味は『くらい』『くろい』で必ずしもpositiveな意味ではないようです。『黎明』という言葉は夜明け前を指します。
『黎』を選んだ理由は大きく二つあります。まず、コロナです。4年間のコロナ禍は様々な災いをもたらしました。感染症としてのみならず深刻な社会の分断が起きました。それは孤独、疎外、敵意、憎悪などでした。当院においても医療活動の制限のみならず経営的な危機、人間関係の悪化などが起きました。感染は下火になったとはいえいまだに周期的に感染者数は増減を繰り返しています。また、いったんできてしまった対人関係の溝はそう簡単には埋まりません。職員が安心して信頼しあって働ける環境の回復には少し時間がかかりそうです。そういったコロカ禍からの回復の意味を込めての『黎』が一つの理由です。
二番目にはこれまで当院の屋台骨を支えてきてくれた先輩の先生方の定年、辞職です。消化器内科で長らく当院の医療活動の先頭に立ってこられた佐伯先生が昨年12月で常勤医師から外れました。また、膠原病診療、人工透析分野で八面六臂の活躍をされてきた稲波宏先生が今年の8月末で退職されます。さらに、当院に心臓弁膜症センターを創立し数々の素晴らしい心臓手術をされてきた岡田先生が10月末をもって定年となります。当院はこれらの偉大な先輩医師の活躍に支えられてきましたがこの1年で相次いで第一線から退かれることになりました。当然、医療活動の面でのダメージは少なくありません。医業収入の面でも、人事の面でも一旦は後退を余儀なくされると思われます。これが『黎』という文字を選んだ二つ目の理由です。
『黎』は暗い状態を示します。しかし、明けない夜はありません。必ず日が昇り夜明けがやってきます。『黎明』は夜明け前の暗い状態を指します。今年は我慢の年になるかもしれません。しかし、これを転換期として、新しい医療への準備期間として力を蓄える年にしたいと思います。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
令和6年8月
理事長 室生 卓
2023年 「進」
2022年 「紡」
2021年 「声」
2020年 「向」
2019年 「結」
2018年 「前へ」
2017年 「学ぶ」