消化性潰瘍の話6〜PPI+H2ブロッカーの併用はどうしてダメ?胃薬同士の組み合わせ、何が正解?〜

薬剤科

今回は、以前のブログ(消化性潰瘍の話その1~胃酸の分泌と濃度のメカニズム2022.05.13)に出てきた、医事課の方の疑問にお答えしたいと思います。

その疑問は、こんな感じの内容でした。
「ネキシウムを飲んでいる患者さんにロキソプロフェンとレバミピドが処方されているけど、これって重複?」
「ネキシウムとファモチジンは一緒に使えないのにネキシウムとレバミピドはいいの?」
「ファモチジンってロキソプロフェンが胃を荒らさないための予防に使える?」
それでは、早速その疑問にお答えしていきたいと思います。

■PPIとH2ブロッカーの併用 ~原則併用不可です~

以前(消化性潰瘍の話その2〜胃酸を止めるH2ブロッカーとPPI、P-CAB〜2022.08.19)に触れた通り、プロトンポンプ阻害薬(以下PPI :Proton Pump Inhibitor)とH2ブロッカーはどちらも攻撃因子抑制薬ですが、作用する場所が違うので併用することで上乗せの効果はありそうにも思えます。

一方で、PPIは胃酸による活性化を必要とするという点を考えると、H2ブロッカーと併用することで胃内pH環境に変化が起こり、PPIの作用が減弱するという可能性もあります。さてレセプトでは実際どう判断されているのでしょうか?

実際のところ、PPIとH2ブロッカーの併用については審査機関より通達が出ています。通達から一部抜粋します。

「H2ブロッカー(ガスター錠等)とプロトンポンプ・インヒビター(PPI、オメプラール錠等)は同効の薬剤であり、それぞれが単独使用で所期の効果は期待できる。

PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎については、PPIの弱点である夜間の効果減弱すなわちNocturnal gastric Acid Breakthrough(NAB)に対して、速効性のあるH2ブロッカー投与が効果的であるとの報告はあるが、その効果は1週間程度で長期投与では効果が減弱するとの報告もあり、併用による効果について一定の見解は得られていない。PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎に対しては、まずPPIの倍量あるいは1日2回投与が強く推奨されている。(胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015)

さらに、2015年2月に薬価収載された新しい作用機序を持ったPPI、ボノプラザン(タケキャブ)は胃酸で失活しない、速効性のPPIである。この新規PPIの登場により、今後、PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎の治療方針が変更される可能性が高いと思われる。

したがって、H2ブロッカー(ガスター錠等)とプロトンポンプ・インヒビター(オメプラール錠等)の併用投与は、原則認められないと判断した。」

(社会保険診療報酬支払基金 平成29年9月25日通達より一部抜粋)
補足:PPI投与中にもかかわらず、夜間に胃内pHが4以下となる時間が1時間以上連続して認められた場合NABと定義します。

要約すると「併用で効果が上がるかよくわからないし併用不可。PPIで駄目ならボノプラザン使ってみて」ということですね。なお上記の文ではガイドラインの2015を引用しておりますが、現在最新のガイドライン2020では、「PPIの倍量・1日2回投与、ボノプラザン20mg/日への変更」を推奨しております。そしてPPIとH2ブロッカーの併用に関しては記述自体が消え去っており、言及がありません。
以上により、「PPIとH2ブロッカーは原則併用不可」です。

ところで『原則』というからには例外もあるのでしょうか?
令和になってからPPIとH2ブロッカーの併用について論じた資料があります。(「審査支払機関の間の不合理な差異の解消のための取組」「審査支払機能の在り方に関する検討会」第2回令和2年10月9日)

そこでは、「「原則」の例外として、服用時点が異なるため併用投与でないことが症状詳記から判断できる場合等は認める」とあります。例えばPPIからH2ブロッカーへの切り替えの際、下のような処方箋になったとしても併用投与に該当しないため問題無いということです。

Rp.1 ネキシウムカプセル10mg 1カプセル 分1 朝食後
コメント:3月31日まで服用
Rp.2 ファモチジンOD錠「テバ」20mg 1錠 分1 夕食後
コメント:4月1日から服用

もしも今後オンデマンド処方が普及すれば症状に応じて患者が自己判断でPPIとH2ブロッカーを使い分けるような例も出てくるのかもしれませんが、そのときの判断は難しいものになりそうですね。

■PPIやH2ブロッカーは防御因子増強薬との併用はできるのか ~併用のメリットはあまりない~

では攻撃因子抑制薬と防御因子増強薬の併用はどうなのでしょうか?こちらは作用機序がまるで異なるので即重複で切られるようなことはないのですが、併用の効果はあるのでしょうか?胃潰瘍および十二指腸潰瘍の非除菌治療における併用療法について消化性潰瘍診療ガイドライン2020を参照してみました。

①胃潰瘍初期治療だとラニチジンとテプレノン、シメチジンとエカベトなど、いくつかのH2ブロッカーと防御因子増強薬との併用療法で上乗せ効果が認められるという報告があります。

表1 H2RAと防御因子増強薬の併用療法(H.pylori除菌によらない胃潰瘍の初期治療)に関する報告

*複数のH2RA(シメチジン、ラニチジン塩酸塩、ファモチジン、ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩)に関するデータがひとつにまとめられたうえで解析がおこなわれているため、ステートメントからは割愛した
注)H2RA=H2ブロッカー
消化性潰瘍診療ガイドライン2020より引用

表1によると、複数のH2ブロッカーとテプレノンは併用による上乗せ効果『あり』ですが、シメチジンとテプレノンは『なし』となっており、矛盾しています。PPIと防御因子増強薬の併用に関してはランソプラゾールと防御因子増強薬との併用では上乗せ効果なし(1997.非ランダム)という研究があります。

②十二指腸潰瘍初期治療において、シメチジンとアルジオキサとの併用では治癒の上乗せ効果あり(1987.非ランダム)。
③胃潰瘍維持療法において、H2ブロッカーあるいはPPIと防御因子増強薬の併用による上乗せ効果は認められませんでした。(BQ4-5)(※BQ=Background Question:背景疑問、すでに結論が明らかな疑問のこと)
④十二指腸潰瘍維持療法についてはそもそも文献がありません。

というわけでまとめてみると、「PPIに防御因子増強薬を足しても意味はなさそう」「H2ブロッカーと防御因子増強薬の併用は一部には効果あり」ということになります。(表2)ですが正直どのエビデンスも弱いです。

表2 非除菌治療における酸分泌抑制薬と防御因子増強薬の併用による上乗せ効果まとめ

×:上乗せ効果アリとした報告がない

PPIとH2ブロッカーの併用と違って即払い戻しされるということはないですが、併用されていた場合は、薬剤師はPPI 1剤に減らすことも検討します。患者がどうしても安心のために両方飲みたいなどと訴えられた場合などはそのままにしていることもあるでしょう。

GERDにおける併用の効果はどうでしょうか。GERD診療ガイドラインでは、NERD(Non-erosive reflux disease:非びらん性逆流症)に対する臨床試験において、モサプリド単独では有意な効果がないが、PPIとの併用による上乗せ効果が認められている(2011.ランダム)との記述があります。また、PPI抵抗性GERDを対象とした試験において、六君子湯(2012.ランダム)、半夏瀉心湯(2019.ランダム)、アコチアミド(2018.ランダム)とPPIの併用はPPI倍量投与と同等の効果が認められているとのことです。

■NSAIDs潰瘍の予防に使える薬はどれか ~効果はあるが適応は無い~

では、最後の問題です。非ステロイド性抗炎症薬(以下NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs) や、低用量アスピリン(以下LDA:Low-dose aspirin)による潰瘍予防にはどのような消化性潰瘍治療薬を用いることができるのでしょうか?

まず予防といっても一次予防と二次予防、三次予防があります。一次予防とは、通常私たちが考える予防のことで、「健康な人が病気にならないために予防する」ということです。二次予防とは早期発見、早期治療。三次予防とは重症化の防止、再発抑制です。

H2ブロッカーの注射薬は、手術時や火傷のときなど、高ストレス時に潰瘍予防として投与することはありますが、内服薬としては予防の適応はありません。というより、実は日本では消化性潰瘍の「一次予防」の適応を持っている薬はありません。いままで潰瘍になったことがない人には使える予防薬がないのです!
潰瘍の既往がある人に使える薬はあります。NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の「再発抑制」に適応のある薬を以下に示します。

表3 NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の再発抑制に適応のある薬一覧

※1:ラベプラゾール20mg錠には適応なし。

とはいっても潰瘍になってから治療するより潰瘍にならないようにしたほうが良いに決まっています。実際の一次予防効果はどうなのでしょうか。
消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、プロスタグランジン製剤、PPI、H2ブロッカーに予防効果が認められ、上部消化管出血の予防効果がPPIは他と比べて有意に優れているとして、潰瘍既往歴がない患者におけるNSAIDs潰瘍発生予防治療に対し、「PPIによる予防を行うように提案する。(推奨の強さ:弱、エビデンスレベル:A)」となっています。また、LDA服用者の場合も、潰瘍の一次予防としてPPIの併用を推奨しています。

NSAIDsとしばしば一緒に出されているレバミピドの効果はどのくらいでしょうか。レバミピドはプロスタグランジン製剤ミソプロストールと同等の予防効果が認められています。また、高用量レバミピド(1日900mg)は「薬剤性小腸障害」に有効な可能性ありとなっています。PPIより安価であり、投与期間制限もないこと、H2ブロッカーのように耐性の心配がないこと、PGE1製剤のような副作用の心配がないこと、そして1日1回か2回と決まっているPPIやH2ブロッカーと違い、NSAIDsの頓服の際、一緒に服用する使い方ができることなどにより、レバミピドはNSAIDs使用の際、広く併用されています。

以上より、

  • 潰瘍の既往のある患者にNSAIDsを投与する場合は適応のあるPPIかボノプラザンを勧めます。
  • 既往のない患者に一次予防をしたい場合、毎日決まった時間にNSAIDsを使用する患者はPPI、NSAIDs頓服の場合はレバミピドで十分、といったように使い分けると良いでしょう。
  • H2ブロッカーには、予防効果はありますが適応はありません。場合によっては検討しても良いかもしれません。

ただしいずれも一次予防の適応はありません。

■まとめ ~消化性潰瘍薬の併用のしかたとPPI長期投与について~

以上より、冒頭の質問に関する答えは

Q)「ネキシウムを飲んでいる患者さんにロキソプロフェンとレバミピドが処方されているけど、これって重複?」
A)PPIに対する防御因子増強薬の上乗せは、差し戻しはないですが効果もなさそうです。PPIを服用している患者さんにレバミピド+ロキソプロフェンの処方が出た場合、薬剤師はレバミピドの削除を検討します。
Q)「ネキシウムとファモチジンは一緒に使えないのにネキシウムとレバミピドはいいの?」
A)PPIとH2ブロッカーの併用は認めないと社会保険診療報酬支払基金からお達しが出ています。差し戻し対象です。後者は差し戻し対象ではないけれどネキシウム単体を検討する事案です。患者さんがどうしても安心のために両方飲みたいなどと訴えられた場合などはそのままにしていることもあるでしょう。
Q)「ファモチジンってロキソプロフェンが胃を荒らさないための予防に使える?」
A)H2ブロッカーには、予防効果はありますが適応はありません。NSAIDsの潰瘍予防は保険適応のあるPPIかボノプラザンが良いです。潰瘍の既往があるかどうか確認を。

となります。なおH2ブロッカーと防御因子増強薬の併用はレセプト上ありです。実際の効果としては半信半疑です。

ところで、最近ポリファーマシーって流行ってますね。当ブログでも何度か話題になってます。
(多すぎる薬は体に毒! ポリファーマシー問題を考える ~高齢者における適切な薬物治療のために~2020.4.6)
(「せん妄」の薬物治療の前に、原因となりうる薬剤を要チェック!~ポリファーマシーを考える ver.2~2021.1.20)
(その薬、本当に必要?多く飲んでいれば良いわけじゃない〜病棟薬剤師と一緒に考えるポリファーマシー問題〜2021.9.15)
(高齢者の転倒は社会問題!~原因の一つに薬剤が関連!ポリファーマシー(多剤服用による弊害)を考えるver.3~2021.10.18)
(「眠れない」イコール「睡眠薬が必要」ではありません〜ポリファーマシーの「無駄に多い処方」問題の解決に向けて〜2022.10.19)

ポリファーマシー分野を勉強されている方は気になったでしょう。「消化性潰瘍やGERDのガイドラインではやけにPPIをプッシュするけど、実際長期投与するとなるとリスクがあるって話じゃなかった?」と。
冒頭の答えは出ましたが、次回はPPIの長期投与のリスクとベネフィットについて少しだけ掘り下げたいと思います。

■おまけ

今回の記事を書く際、色々な資料をあたっていて、「ん?」と首をひねったことがありました。
ボノプラザンを服用しても早朝の胸やけが収まらない重症例の逆流性食道炎に対し、夜間の胃酸分泌抑制を目的にH2ブロッカー+モサプリドを追加する、という例題が「類似薬の使い分け第3版(電子版)」に紹介されていました。

PPIに対してのH2ブロッカーの追加は不可です。この例題では、ボノプラザンでも夜間の胃酸分泌が抑えられなかった場合のH2ブロッカーの追加をしていますが、これは果たして認められるのでしょうか・・・?

気になったのでタケキャブ®を作っている武田薬品の相談窓口に直接聞いてみました。想像通り、「断言できないがおそらくは認められないでしょう」との返事が返ってきました。100%駄目とは言いませんが保険請求が通らないリスクもありますし、「博打」はやめたほうが良さそうです。

参考文献
消化性潰瘍診療ガイドライン2020 改訂第3版
胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021 改訂第3版
類似薬の使い分け第3版
高齢者の安全な薬物療法2015
病気がみえるvol.1
薬がみえるvol.3